Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強初心者のブログ

【天気図】前線解析①~等温線と前線~

 

実技試験問題を解いていると前線を解析させる問題によく出くわします。というかほぼ毎年のように前線解析は出題されています。

しかし,実際に問題を解いて回答と照らし合わせてみても,なんだかちょっとズレていたり(まったく見当違いなところに引いていたり),簡単そうに見えて思っていた以上に苦戦するのです。

 

今回は私が前線解析をいまひとつ理解できていませんので,その点を共有しつつ,どう解析すれば良いのかを過去の天気図を参考にして勉強していくことにします。今回は等温線と前線との関係について過去事例から考察していきます。

 

 

温暖前線寒冷前線

まずは2023年11月17日9時の天気図を見ていきます。この日,地上天気図上には日本海と太平洋にそれぞれ温帯低気圧があり日本を通り抜けていきました。二つ玉低気圧というやつですね。

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この日時における850hPa気温・風,700hPa鉛直流解析図(AXFE578から取得した初期時刻の天気図)を下に示します。

黒の太い実線が850hPaにおける等温線になります。一方で網掛けされた部分は鉛直P速度を表しており,網掛け部分が上昇流域,それ以外の白抜き部分が下降流域に相当します。

ここに2つの低気圧があるのですが,矢羽根に着目して低気圧循環があるところ,そして鉛直P速度の極値(上昇流の極大値)さらに温度線が高緯度側に張り出している領域(前線の前面で暖気が入って後面で寒気が流入するため)などを参考にすると,だいたい低気圧中心の場所の見当がつきそうです。

 

ここに同時刻の地上の実況天気図(ASAS)を重ね合わせてみましょう。解析図は赤く,地上実況天気図は黒く表示することにします*1

線が混み合っていますし,少し薄くて見づらいのですが,高層天気図上の低気圧循環の近くに2つの地上低気圧中心があり,そこから温暖前線寒冷前線が伸びているのが分かりますね。

前線の場所を850hPa気温分布に書き写してみると,下のようなオレンジ線に。青矢印は風の向きを表しています。

前線が等温線に概ね沿っているのが分かりますね。

日本海側にある低気圧の温暖前線寒冷前線ともに3℃の等温線に沿っているのが見て取れます。一方太平洋側の低気圧は,温暖前線が9℃,寒冷前線が12℃の等温線に沿っていました。

このことから,等温線が前線解析に有用になり得ると考えられます。そして事実,等温線の集中帯の南縁付近が前線解析をする際に用いられるそうです。これは,前線とは一般的に冷たい空気と暖かい空気がぶつかるところにできるので,前線を挟んだ温度傾度が大きくなることで説明できます。

 

では上の図を参考にして,どのような特徴のある部分に前線が書かれているでしょうか。

まず気づくのが,前線が引かれている部分の周りに網掛け領域(すなわち上昇流域)が広がっているということでしょう。特に前線付近では温度差が大きいことから,暖かい空気が冷たい空気の上に滑昇して上昇気流が発生しやすくなります。

また前線付近の風に着目すると,上の図の青い線で示したように,特に寒冷前線を隔てて風向が大きく変化していることが分かります。一方温暖前線では,前線を隔てて風向の変化が明瞭ではない場合もあり,そういった場合は風速の違いに着目するのも一つの手段なんだとか。今回の日本海側の低気圧の温暖前線については,前線を挟んで風向・風速の変化が明瞭ではないように私には思えるので,何故ここに温暖前線が引かれるのかは私が理解できていないポイントの一つです。

あとは,前線をどこまで引けば良いのかという点ですが,ここも正直私がよく分かっていない点。上昇流域が認められるところまで前線を引くという考えもあるようですが,上の天気図では,温暖前線は上昇流域の途中で線が止まっているので,これがどういった考えに基づいて引かれたのかは分かりかねる状況なのです。


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別の日の2023年12月7日はどうでしょうか。先ほどと同様に,AXFE578から取得した初期時刻の天気図を見てみます。

北海道の西側に-123hPa/hという強い上昇流域が認められ,この付近に地上低気圧中心が位置していました。地上天気図を重ね合わせるとこのようになります。

地上前線を書き写してみると,下のようなオレンジ線になります。

こちらも寒冷前線が0℃の温度線,温暖前線が3℃の温度線に概ね沿っているようです。一般的に,寒冷前線温暖前線に挟まれた暖域では強い風が観察されるようで,40ノット前後の風が吹いていました。

温暖前線を挟んだ風向・風速の変化については,やはりあまりピンときておらず,明瞭ではなさそうだなというのが個人的印象です。

 

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さらに別の日,2023年12月31日の天気図を見てみます。

-110hPa/hという強い上昇流域が認められる八丈島付近に地上低気圧中心が位置していました。

前線を書き写すとだいたい9~12℃の等温線にわたって引かれている感じでしょうか。気象予報士のお姉さん曰く,前線が1本の温度線に沿って描かれる必要はなく,温度線集中帯南縁の中でどこに風のシアーがあるかを理解して引くことが重要のようです。


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今回の場合,温暖前線を見てみると暖域で45ノット近くの風が吹いていますが,前線の北側では30ノット程度と相対的に弱くなっており,これが前線を挟んだ風速差ということでしょうか。

 

前線(特に温暖前線)の解析は未だにピンときていない点も多いのですが,上のように日々の天気図を重ね合わせたりして見慣れてくると徐々に感覚がつかめていくのかもしれません。もし詳しい方いらっしゃったら教えてください。

今回は温暖前線寒冷前線と見てきましたが,低気圧が発達して最盛期を迎えるころには閉塞前線が見られるようになります。閉塞前線についても勉強して,近いうちに記事にまとめようと思います。

 

梅雨前線の解析

ここまで見てきたとおり,等温線集中帯から前線を解析する方法は有用そうですが,これがなかなかうまくいかない場合が存在します。梅雨前線の解析です。

 

下は2023年5月31日の850hPa気温・風,700hPa鉛直流解析図です。

等温線間隔がそこそこ広く,等温線集中帯があまり明瞭ではないように見えます(少なくとも私の目からは)。一般的な寒冷前線などは冷たい空気と暖かい空気がぶつかるところにできるので前線を挟んで温度傾度が大きくなるものですが,梅雨前線の場合はそうではないのですね。

地上天気図との重ね合わせると,下のような位置に梅雨前線は通っていました。

 

この梅雨前線がどのようにして形成されるかというと,(主に西日本で)暖かい乾いた北側の空気と,暖かく湿った南側の空気がぶつかる場所にできるようです。すなわち南北の空気がどちらも暖かく,温度に大きな差がないのですね。その代わり,空気に含まれる水蒸気量が南北で大きく違うようなのです。

とすると,等温線ではなく等相当温位線を使った方がうまくいくだろうと考えられます。相当温位というのは空気の温度に加えて,空気の湿り具合を考慮した指標だからです。

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そこで,この時刻を予想した850hPa相当温位・風12時間予想図を見てみましょう。

等温線ではあまりパッとしなかった集中帯が,等相当温位線で見るとハッキリと観察されるようになりました。

ここに地上天気図を重ね合わせますと下のようになりました。

オレンジ色で示した梅雨前線が,等相当温位線の南縁に沿って引かれていることが分かります。黄海あたりでは線が少しズレていますが,これは相当温位が12時間前を初期時刻とする予想された値であるため誤差が生じたからだと推察しました。

特に今回の梅雨前線では,前線を挟んだ南北で風向が大きく違っており,北側では北~北東よりの風,南側では西よりの風が吹いているのが分かります。

 

 

このように等相当温位線もまた前線解析に有用であることが考えられます。そして,(梅雨前線などの解析のように)等相当温位線の方が等温線よりも,適用性が高そうな印象も受けました。

もう少し具体的に等相当温位線と前線との関係について,また今度見ていくことにします。

 

 

天気図理解のメモ
  • 等温線の集中帯の南縁付近が前線解析に用いられることがある。
  • 前線が1本の温度線に沿って描かれる必要はなく,温度線集中帯南縁の中でどこに風のシアーがあるかを理解して引くことが大切。
  • 一般的に寒冷前線温暖前線に挟まれた暖域では強い風が吹く。
  • 寒冷前線では,前線を隔てて風のシアーが明瞭に認められることが多く,風向の変化,風速差から前線を解析する。
  • 温暖前線では,前線を隔てて風向の変化が明瞭ではない場合もあり,そういった場合は風速差にも着目する。
  • 梅雨前線は等温線からでは見つけられないことがある。
  • 梅雨前線(特に西日本)では南北の温度差は小さく,南北の空気の水蒸気量の違いが大きいため,等温線ではなく等相当温位線の集中帯南縁付近から前線解析する。

 

(以下,あまり理解できてないポイント)

  • 前線を挟んだ明瞭な風のシアーがない場合の温暖前線の引き方。
  • 前線をどこまで伸ばして,どこで止めるかのさじ加減。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。

*1:GIMPという無料の画像編集ソフトを用いて2つの図を重ねました