Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強初心者のブログ

【気象学勉強】第39回 発散・収束①

 

今回は発散・収束について。少し難しそうですがじっくりとゆっくりと2回に分けて考えていきたいと思います。

 

 

発散・収束

以前,地上風について勉強した回で,高気圧周辺の地表付近の空気は高気圧中心から離れるように移動し,低気圧周辺の空気は低気圧中心に集まるように移動してくることを説明しました。前者を発散,後者を収束と呼ぶのでした。基本的には水平方向で起こる空気の移動について使われる言葉のようです。

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ではなぜこの発散と収束が重要なのか?

それは地表付近の発散と収束が分かるとどこに上昇気流が生じ,どこに下降気流が生じるのかが分かるのです。特に上昇気流が生じて雲ができると雨を降らせますので,降水や雲の発生を解析することができるワケです。

ではどうやって発散・収束を解析をするのか?

それを知る前にまずは風のベクトル場について見ていくことにします。

 

風のベクトル場

下の図はSunny Spot 天気・気象情報サイト! (sunny-spot.net)からとってきた地上の風の進む様子を表したものです。

矢印の方向は各地点の風の進む向きを,矢印の大きさは風の強さを表しています。このように大きさだけでなく向きを持ったものをベクトルと呼びます(図では矢印が曲がっており,局所的なベクトルをなぞって作られる「流線」と呼ばれているものです。ベクトルはもっと局所的に直線で表現されるものですが,ここでは流線をベクトルとみなして話をしていきます)。

そして地図などの空間の中で,ベクトルの分布を表したものをベクトル場(ば)*1と呼びます。上の天気図は風のベクトル場を表していると考えてもらって構いません。

 

 

他にも,例えばx軸とy軸の二次元で表される一般的なベクトル場(別に気象に限らずとも一般的なベクトル場として)は以下のようなものが描けます。

これらはいずれもベクトルの分布を表現しているのですべてベクトル場です。いろんなベクトル場があるわけですね。

 

ただ必ずしも平面的なものばかりだけではなく,空間的(x軸・y軸・z軸の三次元的)にベクトル場が生じる場合も当然あり得ますので,そういった場合は以下のような感じに描画できたりします(下図のベクトル場はデタラメに作成しました)。

見ていて面白いですね。目が回りそうです。

このように,向きと大きさを表現するのにベクトル表現が使われ,そのベクトルの分布をベクトル場といい,地図上の各地点での風の向きと強さを表現するのには良い方法であるように思われますね。

 

発散の式とその意味

ではベクトル場を理解したうえで,今度は発散の話に入ります。

今ベクトル場が可視化できたので,その中でその流れが離れるところ(発散するところ),その流れが集まるところ(収束するところ)が分かりそうですね。

 

例えば先ほどの地図上の風のベクトル場を見てみると,逆側から向かってくる風同士が合流するところは収束していると考えてもよさそうですね。この辺では行き場を失った空気が上空へと逃げることで上昇気流が生じ,雲が発生して雨が降っているのかもしれません。


でも見た目だけではどこで発散しているか,収束しているかを理解するには限界がありますし,2地点間を比較したときにどちらがどのくらい風の集まり具合が強いのかを把握するのは至難の業でしょう。ちゃんと発散・収束を数式で定義してあげて,数値的に解析できるようにするのが良さそうです。

 

そこで,とある局所的な領域での空気の離れ具合・集まり具合を式で表現することを考えます。それが発散を表す式です。

 

発散(Divergence)を表す式は下のようになります。

    div \vec V = \dfrac{\partial V_x}{\partial x} +  \dfrac{\partial V_y}{\partial y} +  \dfrac{\partial V_z}{\partial z}

発散も収束もいずれも上記の式で表現可能です*2

 

ただし空気の発散・収束の場合は鉛直方向について考えず水平方向のみを考えるので, z 方向は含めない以下の式になります。

 

    div \vec V = \dfrac{\partial V_x}{\partial x} +  \dfrac{\partial V_y}{\partial y}  ・・・①

 

 z 方向の項は消えたのでスッキリとはしましたが,よく分かりませんね。

①式は一体何を意味しているのでしょうか?

 

ここで下のように回転しているようなベクトル場  \vec V を考えてみましょう。

このベクトル場の中に赤い四角で示した局所領域を考えます。

①式の左辺  div \vec V は空間上の(赤い四角のような)ごく限られた特定の領域における流れの発散量を表します。つまりその領域に(ある瞬間に)どのくらいの流れの集まり具合(離れ具合)があるのかを表す量です。

 

赤い領域だけを拡大して見てみると下のようになるでしょう。

この赤い領域にある瞬間にどのくらい流れが流入し,どのくらい流出するのかを測定して,その差分から正味の流出量を表現したものが発散(  div \vec V )です。

このとき,流入・流出する流れを  x軸と  y軸 に分解して考えます。

そして①式の  {\partial V_x}/{\partial x} x軸方向の流れの正味の流出量,  {\partial V_y}/{\partial y} y軸方向の流れの正味の流出量を表します。

 x軸方向 と  y軸方向の流出量を足し合わせたものが,トータルの正味の流出量であり,これこそが①式の右辺に相当するのです。

 

そして,局所領域の流出量が流入量を上回るなら「発散する」といいます。流出量が多いためその領域の密度が小さくなるイメージです。

   発散 div \vec V >0

 

逆に流入量が流出量を上回るなら「収束する」といいます流入した量が多いため密度が高くなるイメージです。

   収束 div \vec V <0

 

流入量と流出量が同じなら発散も収束もなく値はゼロになります。特に流れの渋滞も閑散としたところもなくコンコンと流れているイメージでしょうか。

   発散も収束もない状態 div \vec V = 0

 

このように各地点における大気の発散の値を計算することで,気象予測に活用できるということですね。

 

ちなみに気象の教科書を見ていると①式は下のように近似することが多いようです。

    div \vec V = \dfrac{\Delta V_x}{\Delta x} +  \dfrac{\Delta V_y}{\Delta y}

この式で, \Delta V_x \Delta V_y はそれぞれ  x軸方向 と  y軸方向の風速の変化量(流出時の風速-流入時の風速)を表しており, \Delta x \Delta y は局所領域の  x軸方向 と  y軸方向の1辺の長さです。 \partial(デル,ラウンドディー,ラウンドなど) は偏微分というものを表しており変化量を意味しているので,  \Delta と意味合いは似たようなものなのであまり気にしないで良いかと思います。

 

発散の式について詳しく知りたい方は,大学数学・物理を分かりやすく紹介するYouTuber,ヨビノリたくみさんの発散についての動画が参考になります。


www.youtube.com

 

さて,一通り発散・収束について説明してきました。イメージ先行なので厳密な説明とはなっていないかもしれません。それでもなんとなくイメージがつかめてきただけで小さな前進です。

次回からは練習問題を解きながら,発散・収束についてもう少し具体的にイメージができるようになっていきたいと思います。

 

【まとめ】学習の要点

ということで,今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。

自分的メモ!
  • 発散と収束を知ることで,降水や雲の発生を解析することができる。
  • 大きさだけでなく向きを持ったものを「ベクトル」と呼び,ベクトルの分布を表したものを「ベクトル場」と呼ぶ。
  • 局所的な領域での空気の離れ具合・集まり具合を「発散」で数式化する。
  • 発散とは,(単位時間・単位面積あたりの)  x軸方向 と  y軸方向の流れの正味の流出量を足し合わせたもの。
  • 局所領域の流出量が流入量を上回るなら発散( div \vec V >0
  • 局所領域の流入量が流出量を上回るなら収束( div \vec V <0

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。

*1:ベクトル場は,「ベクトルば」で,「ベクトルじょう」ではありません。磁場や電場と同じように読みます

*2:これは大学でベクトル解析というものを学ぶときに出てくる式なのです。高校時代にも学ぶこともありませんし,大学でも主に理系の学部で学ぶような内容です(私は理系ですが習った記憶がない,サボってただけかw)。