2024年の梅雨入り
2024年6月21日に近畿・東海・関東甲信越地方で梅雨入りが発表されました。平年と比較すると2週間程度遅かったようです。
前線と低気圧の影響で東日本などで雨が降っていて、気象庁は「近畿と東海、関東甲信が梅雨入りしたとみられる」と発表しました。(中略)近畿と東海の梅雨入りは去年より23日、平年より15日、関東甲信の梅雨入りは去年より13日、平年より14日いずれも遅く、関東甲信は過去3番目の遅さとなりました。
2024/06/21 NHKニュース
その一方で,すでに梅雨入りしていた沖縄地方では,早くも6月20日に梅雨明けが発表されました。沖縄では一足早く本格的な夏が到来したということですね。
沖縄地方は高気圧に覆われておおむね晴れています。この先1週間も晴れる日が多くなる見込みで、沖縄気象台は20日午前11時に全国で最も早く「沖縄地方が梅雨明けしたとみられる」と発表しました。(中略)沖縄地方の梅雨明けは去年に比べて5日、平年に比べて1日早くなっています。
2024/06/20 NHKニュース
下の表は気象庁が発表している今年の各地方における梅雨入りの発表日ですが,全国的にも遅かったことが分かりますね。どの地方を見ても「遅い」という文字が並んでいます。

でもどうして今年の梅雨入りは遅かったのでしょうか。
私の勉強も兼ねて,梅雨について深掘りしていくことにしました。
梅雨入りのメカニズム
ドキュメンタリー番組などを見ていると,アフリカサバンナの雨季と乾季を乗り越える野生動物の映像が流れてくることがあります。過酷な世界だなぁとついつい見入ってしまうんですが,実は日本にも雨季というのが存在していて,極東アジアの雨季に相当するのが梅雨になります。
この梅雨を引き起こす役者はたくさんいるようで,特に梅雨入りに大きな役割を果たしているのが太平洋にできる太平洋高気圧,中国大陸からの高温で乾燥した空気です。
6,7月ごろになると,南アジアでは(日射によって海よりも陸の方が温かくなり,陸側で上昇気流が発生して,それを埋めるように)海洋から大陸に向かう風が吹きます。これをアジアモンスーンと呼び,南の海から吹く風ということで,高温で多湿な性質を帯びています。
同時に,日本の南から東には太平洋高気圧が発達し,その高気圧の縁辺を回る南からの湿った空気が流入してきます。
すなわち,日本の南側ではアジアモンスーンと太平洋高気圧の縁辺流による暖湿な空気が入ってくるのですね。
このとき,上空の偏西風(亜熱帯ジェット)は,北半球が暖まるにつれて徐々に北側にずれて,日本のはるか西でヒマラヤ山脈にぶつかり,その流れは山脈の北側を迂回するルートと南側を迂回するルートに分岐します(下図)。

分岐した北側の亜熱帯ジェットは大きく押し上げられ(チベット高原も邪魔をするのに一役買う),それを解消するために大陸の東側で再び元の緯度に戻ろうとします。その結果,偏西風は蛇行することになり,偏西風の形成するトラフ(気圧の谷)の後面では下降気流が生まれ,中国大陸には(日射に加えて)断熱昇温により暖かく乾いた空気が居座ることになるのです。
そして,中国大陸や台湾,沖縄地方では,主に南側のアジアモンスーンの暖かく湿った空気と,北側の暖かく乾いた空気がぶつかることで前線が形成されます。これが梅雨前線です。上の図を見ても分かるように,梅雨前線は南側を迂回する亜熱帯ジェットに沿って発生します。
一方,日本の本州付近では,アジアモンスーンの代わりに太平洋高気圧を回る縁辺流が支配的となり,大陸からの暖かく乾いた空気とぶつかることで前線が形成されます。
すなわち,梅雨前線を挟んで(特に西日本では),北の暖かく乾いた空気と,南の暖かく湿った空気がぶつかることになり,南北の温度傾度は小さい一方で,南北の湿度の傾度は大きくなるという特徴をもつのです(梅雨末期の方が顕著のようです)。
日本付近で見られる低気圧に伴う一般的な前線は,冷たい空気と暖かい空気がぶつかることで形成されますので,梅雨前線はこの点で他の前線とは異なる性質を有していることに注意する必要があります。
南北の空気は拮抗し合い前線は日本周辺に居座りつづけるため,しばらくは天気が悪い日が続きますが,やがて太平洋高気圧の勢力が強まると,徐々に前線は北側へと押しやられてついに梅雨明けとなるのです。
ちなみに北海道には梅雨自体がないので,梅雨前線は沖縄・奄美地方から徐々に北上していき(実際には南北振動を繰り返しながら北へと移動する),東北地方に達するとやがてそこで消滅してしまう運命を辿ります。
梅雨入りの発表
次に,どのようにして梅雨入りは発表されるのでしょうか。
梅雨入りを発表するのは気象庁です。気象庁がどのような基準で梅雨入りを発表するのかというと,その基準は意外と曖昧なようです。
「関東甲信地方は6月21日ごろに梅雨入りしたとみられます」。21日に気象庁から発表された梅雨入りを告げる一文だ。ただ、文言をよく見ると、「ごろ」「みられます」など自信がなさそうな言葉が並んでいる。(中略)季節が移ろうように、徐々に現れる梅雨を「この日から」と決めるのは難しいケースが多いのだという。
虹の7色の境界がどこにあるのかを正確に把握できないように,連続的に変化する季節の境界を一本の線で分けるというのはやはり至難の作業のようです。
実際,その日までの天気の経過や1~2週間先の見通しをもとにして,梅雨入りの「速報値」を発表しているようで,9月になって梅雨の状況を振り返って改めて「確定値」を出すという形をとっているのが実情とのこと。
遅い梅雨入り
では最後に,2024年はどうして梅雨入りが全国的にも遅くなったのでしょうか?
それは太平洋高気圧の北への張り出しが弱かったかららしいです。
実際に天気図で確認してみましょう。
まず,梅雨前線は概ね亜熱帯ジェット気流に対応し,太平洋高気圧の北縁に位置することが知られています。高層天気図では500hPa面の等高度線(5820~5880m)や亜熱帯ジェット気流の分布からおおまかな前線の位置を把握できます。
今回は,500hPaの5820mと5880mの高度に着目して実況天気図を見てみました。
下は今月の500hPaの高層の実況天気図です。オレンジ線は5820mの等高度線,赤線は5880mの等高度線として色付けしてみました。

5880mが概ね太平洋高気圧に対応する高度線ですので,高気圧は西側には張り出していることが分かります。
一方,6月16日になっても太平洋高気圧の北縁付近は日本のやや南に位置しており,北側への張り出しは弱いようにも見えますね。
なぜ太平洋高気圧の北側への張り出しが弱いかという理由に対しては,このような記事がありました。
インド洋熱帯域の海面水温が高く積乱雲が多く発生し、それらがフィリピン付近で低気圧となり、太平洋高気圧が西へ張り出す形に。例年のように梅雨前線が北に向かわずとどまり、こうしたことから遅れが生じているという。
また,日本付近での偏西風の蛇行も大きいため,梅雨前線がなかなか北上できなかったという理由もあるようです。
このように,梅雨のメカニズムはすごく複雑で不明なことも多いようなんですが,毎年のように雨季が来ると思うと地球規模のロマンを感じないわけにはいかないのです。
参考図書・参考URL
下記の文献やwebサイトを参考にしました。
- 『図解・気象学入門』古川武彦・大木勇人著(講談社ブルーバックス)
- 気象庁|令和6年の梅雨入りと梅雨明け(速報値) (jma.go.jp)
- 世界の”雨”を知ろう | GDIコミュニケーションズ (gdicommunications.com)
- 自信なさげな“梅雨入り発表” 実はあいまい、気象庁が頭悩ます理由(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース
- 遅い梅雨入りとともにいきなり最盛期へ、7月早々には”梅雨明け猛暑”が到来する可能性も?(杉江勇次) - エキスパート - Yahoo!ニュース
- 太平洋高気圧弱く、梅雨入りは奄美と九州四国にとどまる 沖縄は明ける - 産経ニュース (sankei.com)
- 今年の梅雨 短期集中型か 梅雨入り早々の大雨と厳暑に警戒(気象予報士 吉田 友海 2024年06月22日) - 日本気象協会 tenki.jp
- 梅雨入り遅れたのはなぜ?梅雨明けは早いか遅いか?そして雨の量は?坂下気象予報士が解説 | SBC NEWS | 長野のニュース | SBC信越放送 (1ページ) (tbs.co.jp)