前回は天気図について説明しました。そこで高層天気図というものが出てきましたが,そもそも高い場所の気象ってどうやって観測しているんでしょう?
ラジオゾンデ
高層気象観測はラジオゾンデと呼ばれる気象測器をゴム気球につけて飛ばすそうです。ラジオゾンデ(特にGPSゾンデ)は高層大気の気圧,気温,湿度,風向,風速を観測し,測定値を地上に送信します。
ちなみにラジオゾンデには上空の気象を測定するGPSゾンデのほかに,オゾン濃度を測定するオゾンゾンデ,エアロゾルを計測するエアロゾンデ,放射線を計測する放射能ゾンデなどがあるようですが,現在日本の気象庁が飛ばしているのはGPSゾンデとラジオゾンデの2つだけっぽいです。
これを気球につけて飛ばすんですね。
気球に飛ばす様子は以下のような感じ。
気球には空気(分子量28.96)よりも軽い水素(分子量2)などの気体を入れて飛ばします。
どのくらいの高さまでの観測を行うかというと,地上から高度30km程度まで(対流圏から成層圏下部まで)。上空30kmに達するとゴム気球はおよそ6~8倍に膨らんで自然に破裂して地上へと落下,パラシュートによってゆっくりと降下します。
上空の偏西風によって東へと流されだいたいが海上に落下するようですが,たまに陸上にも落下することもあるそうで見つけたら気象庁に連絡する必要があります。
また注意すべきは,偏西風に乗っていくら気球が東に流されようとも,ラジオゾンデで観測されたデータは打ち上げた観測所の真上のデータとして取り扱うことになることです。
高層気象観測をしている場所
日本全国にはおよそ60の気象台・測候所があり(ちなみにアメダス観測所など地域観測所は全国に1300か所),地上の気温や湿度,圧力,降水量などを測定しています。
一方で高層の気象を観測する観測地点は全国で16か所(それに加えて南極の昭和基地でも高層観測しているらしい)。
釧路・稚内・札幌・秋田・館野・輪島・潮岬・松江・福岡・鹿児島・八丈島・父島・南鳥島・名瀬・石垣島・南大東島の16か所。下の図にもありますが,気球を人の手で放球しているか,自動放球装置で放球しているかで色分けされていますが,自動放球装置なんて便利な機械があるんですね。
上記の日本のいくつかの高層気象観測所の上空の大気がどのような状態であるかについては,以下のワイオミング大学のサイトからエマグラムが取得できます。
Atmospheric Soundings (uwyo.edu)
GPSゾンデでの気象パラメータの測定
前述したように,GPSゾンデでは上空の気圧・気温・湿度・風向・風速を測定します。
でもそもそもGPSとは何でしょう。
GPSというのはGlobal Positioning System(全地球測位システム)のことで,現在の位置情報を測定するために開発されたシステムです。スマホで現在の位置情報を確認できたり,カーナビでどこを走っているのか確認できたりするのもすべてはGPSのおかげなのです。
ではGPSゾンデでどのように上空の気象パラメータを測定しているのでしょうか。
まず,位置情報が分かればどのくらいの時間でどのくらいの距離を進んだかが分かるので速度を出すことができますし,どっちの方角に向かって進んだかも分かるので進行方向を出すこともできますね。
ですのでGPSゾンデを用いることで,気球の進み方から上空の風速・風向のデータを収集することができるわけです。ただし気を付けなければいけないのは,上空でどれだけ風に流されたとしても,そこで測定された数値は気球を飛ばした観測所の真上のデータとして扱われるという点です。
では気圧・気温・湿度はどうでしょう。
気圧・気温・湿度はGPSの位置情報などは必要なく,ゾンデに取り付けてあるセンサーを用いて測定します。ただ,気温については(特に昼間のラジオゾンデ観測では)日射の影響により温度計センサーが大気の温度よりも高い値を示すことがあるため,日射の影響を補正する日射補正が行われています。気球の高度が高いほど,また気球の上昇速度が遅いほど温度計への日射の影響は強くなり,それに伴い補正量も大きくなります。
湿度も気温が低くなりすぎると正確な値を測定するのが困難になるため,高度9000m付近より上空では測定していないようです。
また気球の高度ですが,これはGPSにより直接高度を観測するGPSゾンデと,それができないGPSゾンデがあるそうです。
GPSで直接高度ができないときは,関係式(測高公式)から高度計算しています。これは過去にジオポテンシャル高度として紹介したものと同じになります。
地点1の気圧を,地点2の気圧を とすると,地点1の高度と地点2の高度の高度差は以下のような式になります(ちなみに対数の底は10ではなくネイピア数 です。特にネイピア数を底とした対数は自然対数と呼ばれ ではなく で表記されることも多いです)。
もしくは
例えば,地上の気圧が1000hPaで高度が0mだった場合,上空の気圧が500hPaの地点の高度を求めてみると,平均気温 を270Kとして,
()
と計算できます(空気の気体定数,重力加速度 として計算)。
GPSゾンデ観測は協定世界時00時(日本時間の9時)と協定世界時12時(日本時間21時)の1日2回全世界で同時に観測されています。
そして得られた高層気象観測の結果は,毎月ごとに統計されて世界中に配信されます。
以上で高層気象観測についての説明は終了です。
次回からは「風はなぜ吹くのか」について見ていきます。
【まとめ】学習の要点
ということで,今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。
- 高層気象観測はラジオゾンデと呼ばれる気象測器をゴム気球につけて飛ばす。
- ラジオゾンデには気圧,気温,湿度,風向,風速などを観測するGPSゾンデや上空のオゾン濃度を測定するオゾンゾンデなどがある。
- 地上から高度30km程度までの観測を行う。
- 釧路・稚内・札幌・秋田・館野・輪島・潮岬・松江・福岡・鹿児島・八丈島・父島・南鳥島・名瀬・石垣島・南大東島の16か所に高層の気象を観測する観測所がありGPSゾンデを放球。オゾンゾンデの観測を実施しているのはその中でも館野1か所のみ。
- 上空の気温観測では,日射の影響により温度計センサーが大気の温度よりも高い値を示すことがあるため,日射の影響を補正する日射補正が行われる。
- GPS機能によって気球の進み方から上空の風速・風向のデータを収集することができる。
- 高度を自動で計測できないゾンデであれば側高公式から計算で求める。
- GPSゾンデ観測は協定世界時00時(日本時間の9時)と協定世界時12時(日本時間21時)の1日2回全世界で同時に観測される。
- 得られた高層気象観測の結果は,毎月ごとに集計されて世界中に配信される。
参考図書・参考URL
下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。