Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強初心者のブログ

【気象学勉強】第86回 消防法

 

前回に引き続き,気象や災害関連の法律を見ていくことにします。

今回は消防法。さくっと終わらせましょう。

 

 

消防法とは

まずは消防法について。消防法というのは,火災を予防・警戒・鎮圧し,国民の生命や財産を火災から保護して被害の軽減を図り公共の福祉の増進を促すことを目的とした法律です。

第一章 総則

第一条 この法律は、火災を予防し、警戒し及び鎮圧し、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、火災又は地震等の災害による被害を軽減するほか、災害等による傷病者の搬送を適切に行い、もつて安寧秩序を保持し、社会公共の福祉の増進に資することを目的とする。

災害対策基本法は気象災害や火事などの災害全般に対して定められた法律ですが,今回の消防法は火災に特化した法律のようです。1948年に施行されました。

 

火災には危険物などが原因のものもありますが,気象の世界では乾燥した空気による火事・山火事などを考えた方が分かりやすいかと思います。

例えば,2016年に起こった糸魚川市の大火災は,日本海低気圧に吹き込む南からの乾いた強い風が火事が広がった原因の一つと言われています。

www.city.itoigawa.lg.jp

 

火災の通報

この消防法では,火災を見つけたときの私たちの行動について書かれています。

まず私たちが火災を目撃した時にはどうすればいいでしょうか?

第二十四条 火災を発見した者は、遅滞なくこれを消防署又は市町村長の指定した場所に通報しなければならない。
 すべての人は、前項の通報が最も迅速に到達するように協力しなければならない。

消防署(119番)に通報すればいいのですね。もしくは市町村長の指定した場所(消防本部,消防署の出張所,消防団本部,役場,警察署,派出所などが例として挙げられる)に通報するようです。これは身近ですし,日本人なら誰でも知っていることです。

 

 

しかし,火災が起こってからでは遅いですね。

そこで,気象庁や気象台,測候所の長は,空気が乾燥していたりして火災が起こりやすいときには,その状況を都道府県知事に通報しなければいけないと定められています。

第二十二条 気象庁長官、管区気象台長、沖縄気象台長、地方気象台長又は測候所長は、気象の状況が火災の予防上危険であると認めるときは、その状況を直ちにその地を管轄する都道府県知事に通報しなければならない。
 都道府県知事は、前項の通報を受けたときは、直ちにこれを市町村長に通報しなければならない。
 市町村長は、前項の通報を受けたとき又は気象の状況が火災の予防上危険であると認めるときは、火災に関する警報を発することができる。
 前項の規定による警報が発せられたときは、警報が解除されるまでの間、その市町村の区域内に在る者は、市町村条例で定める火の使用の制限に従わなければならない。
第二十三条 市町村長は、火災の警戒上特に必要があると認めるときは、期間を限つて、一定区域内におけるたき火又は喫煙の制限をすることができる。

気象台などから通報を受け取った都道府県知事は,これを市町村長に通報しなければいけません

さらに通報を受けた市町村長は火災に関する警報(火災警報)を発令することができます。基本的に火災で重要な決定権は市町村長にあるのですね。市町村長による火災警報が出されたときには(警報が解除されるまで)住民は火の使用が制限されます

火の使用の制限とは具体的には以下のものがあるようです(いわき市の場合,火災警報をご存知ですか?|いわき市消防本部 (iwaki.lg.jp))。

  1. 山林、原野等において火入れをしないこと
  2. 煙火(花火)を行わないこと
  3. 屋外で火遊びやたき火をしないこと
  4. 屋外において、燃えやすいものの付近で喫煙をしないこと
  5. 山林、原野等において、屋外で喫煙しないこと
  6. 残火(たばこの吸い殻を含む。)、取灰又は火粉を始末すること
  7. 屋内において裸火を使用するときは、窓、出入口等を閉じて行うこと 

 

火災の通知のフローについては以下の図にまとめておきます。

 

消防法として押さえておくポイントは上記くらいですかね。

次回からは,気象業務法について見ていくことにします。

 

【まとめ】学習の要点

ということで,今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。

自分的メモ!
  • 消防法というのは,火災を予防・警戒・鎮圧し,国民の生命や財産を火災から保護して被害の軽減を図り公共の福祉の増進を促すことを目的とした法律。
  • 私たちが火災を発見したときには,遅滞なくこれを消防署又は市町村長の指定した場所に通報しなければならない。
  • 火災をあらかじめ防止するため,気象庁や気象台,測候所の長は,空気が乾燥していたりして火災が起こりやすいときには,その状況を都道府県知事に通報しなければいけない。
  • 通報を受けた都道府県知事は,これを市町村長に通報しなければならない。
  • 通報を受けた市町村長は火災に関する警報(火災警報)を発令することができる。
  • 市町村長による火災警報が出されたときには(警報が解除されるまで)住民は火の使用が制限される

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。

【気象学勉強】第85回 水防法

 

今回は水防法について。前回災害対策基本法について学びましたが,今回の法律とはどのように違うのでしょうか?

勉強していきましょう。

 

 

水防法とは

水防法とは,洪水津波高潮などに際して水災を警戒・防御し,その被害を軽減することで公共の安全を保持することを目的として制定された法律です。1949年に施行されたということで災害対策基本法よりも古い法律になります。

災害対策基本法では暴風・竜巻・豪雨・豪雪・洪水・土石流・高潮・地震津波・噴火・火事などの災害全般に対して防災体制について記述されていましたが,水防法は水災にのみ焦点を当てて防災対策・防災体制について書かれているようですね。

(目的)
第一条 この法律は、洪水、雨水出水、津波又は高潮に際し、水災を警戒し、防御し、及びこれによる被害を軽減し、もつて公共の安全を保持することを目的とする。

雨水出水とは内水氾濫のことで,排水能力を超えた大量の水が下水道などからあふれ出て町が水浸しになることをいいます(河川から水があふれて市街地を水浸しにすることを洪水もしくは外水氾濫といいます)。

 

では,どのような体制で警戒・防御を行うかというと,それが洪水予報水防警報になります。

 

洪水予報

まず洪水予報についてですが,洪水や津波,高波のおそれがあるときにその情報を周知させるための流れが以下に述べられています。

(国の機関が行う洪水予報等)
第十条 気象庁長官は、気象等の状況により洪水、津波又は高潮のおそれがあると認められるときは、その状況を国土交通大臣及び関係都道府県知事に通知するとともに、必要に応じ放送機関、新聞社、通信社その他の報道機関(以下「報道機関」という。)の協力を求めて、これを一般に周知させなければならない。
 国土交通大臣は、二以上の都府県の区域にわたる河川その他の流域面積が大きい河川で洪水により国民経済上重大な損害を生ずるおそれがあるものとして指定した河川について、気象庁長官と共同して、洪水のおそれがあると認められるときは水位又は流量を、はん濫した後においては水位若しくは流量又ははん濫により浸水する区域及びその水深を示して当該河川の状況を関係都道府県知事に通知するとともに、必要に応じ報道機関の協力を求めて、これを一般に周知させなければならない。
 都道府県知事は、前二項の規定による通知を受けた場合においては、直ちに都道府県の水防計画で定める水防管理者及び量水標管理者(量水標等の管理者をいう。以下同じ。)に、その受けた通知に係る事項(量水標管理者にあつては、洪水又は高潮に係る事項に限る。)を通知しなければならない。
都道府県知事が行う洪水予報)
第十一条 都道府県知事は、前条第二項の規定により国土交通大臣が指定した河川以外の流域面積が大きい河川で洪水により相当な損害を生ずるおそれがあるものとして指定した河川について、洪水のおそれがあると認められるときは、気象庁長官と共同して、その状況を水位又は流量を示して直ちに都道府県の水防計画で定める水防管理者及び量水標管理者に通知するとともに、必要に応じ報道機関の協力を求めて、これを一般に周知させなければならない。

まず,気象庁長官の役割について。気象庁長官は,洪水や津波,高潮のおそれがあるときには国土交通省都道府県知事に通知して,必要があればTV局やラジオ局,新聞社などに協力してもらって住民に周知する義務を負います。

 

次に国土交通大臣の役割。国土交通大臣は,気象庁長官からの通知を受けたときに,大きい河川(国土交通省が指定する一級河川など)が氾濫するおそれがあれば,気象庁長官と共同してその水位または流量のいずれか(氾濫後であれば,水位または流量または氾濫により浸水する区域と水深のいずれか)を示して関連する都道府県知事*1に通知して,必要があればTV局やラジオ局,新聞社などに協力してもらって住民に周知しなければいけません。

 

最後に都道府県知事の役割ですが,(大きい河川で洪水などのおそれがあったときに)気象庁長官や国土交通大臣からの通知があった場合には直ちに水防管理者(市町村長など)に通知しなくてはいけません。また,小さい河川(国土交通省の指定範囲外の河川)が洪水などのおそれがあった場合には,気象庁長官と共同してその水位または流量のいずれかを示して水防管理者等に通知して,必要があればTV局やラジオ局,新聞社などに協力してもらって住民に周知しなければいけないようです。

話がややこしいので下に図としてまとめておきます。

 

水防警報

では今度は水防警報について。水防警報とは何でしょうか?

洪水予報が一般に周知される予報であるのに対して,水防警報というのは水防機関(水防団など)へ出動と準備を促すための警報であるとのこと。水防警報を出すのは,(大きい河川・湖沼*2なら)国土交通大臣,(小さい河川や湖沼なら)都道府県知事の役割です。

(水防警報)
第十六条 国土交通大臣は、洪水、津波又は高潮により国民経済上重大な損害を生ずるおそれがあると認めて指定した河川、湖沼又は海岸について、都道府県知事は、国土交通大臣が指定した河川、湖沼又は海岸以外の河川、湖沼又は海岸で洪水、津波又は高潮により相当な損害を生ずるおそれがあると認めて指定したものについて、水防警報をしなければならない。
 国土交通大臣は、前項の規定により水防警報をしたときは、直ちにその警報事項を関係都道府県知事に通知しなければならない。
 都道府県知事は、第一項の規定により水防警報をしたとき、又は前項の規定により通知を受けたときは、都道府県の水防計画で定めるところにより、直ちにその警報事項又はその受けた通知に係る事項を関係水防管理者その他水防に関係のある機関に通知しなければならない。

これも図を示した方が分かりやすい。

 

法律というのはなんとも読みづらくて一般市民からは理解しづらいものですが,この辺は(気象の試験を受ける上では)頑張って覚えた者勝ちというところでしょうか。

 

【まとめ】学習の要点

ということで,今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。

自分的メモ!
  • 水防法とは,洪水や津波,高潮などに際して水災を警戒・防御し,その被害を軽減することで公共の安全を保持することを目的として制定された法律。

 

(洪水予報)

  • 洪水予報とは,洪水や津波,高波のおそれがあるときにその情報を一般に周知させるための予報。
  • 気象庁長官の役割:国土交通省都道府県知事に通知しなければならない。
  • 国土交通大臣の役割:大きい河川(国土交通省が指定する一級河川など)が氾濫するおそれがあれば,気象庁長官と共同してその水位または流量のいずれか(氾濫後であれば,水位または流量または氾濫により浸水する区域と水深のいずれか)を示して関連する都道府県知事に通知しなければならない。
  • 都道府県知事:大きい河川の場合は直ちに水防管理者・量水評管理者に通知。小さい河川の場合は気象庁長官と共同してその水位または流量のいずれかを示して水防管理者・量水評管理者に通知しなければならない。
  • 上記,いずれも必要に応じて,報道機関の協力を求めて,一般に周知させなければならない。

 

(水防警報)

  • 水防警報というのは水防機関(水防団など)へ出動と準備を促すための警報。
  • 国土交通大臣指定の河川・湖沼・海岸なら,国土交通大臣が水防警報を出す。
  • それ以外の河川・湖沼・海岸なら,都道府県知事が水防警報を出す。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。

*1:河川が2つの都道府県にまたがっていることもあるため「関連する」と表記される

*2:正確には国土交通大臣指定の河川、湖沼、海岸

【気象学勉強】第84回 災害対策基本法

 

気象法規については特にまとめようとは思っていなかったのですが,再び一般知識に戻って勉強しておきます。

気象予報士試験では,全部で15問ある一般知識の中で4問はこの気象法規なので,なおざりにはできないのです。

 

 

災害対策基本法とは

先日,能登半島地震を受けて災害の対応について勉強しました。

weatherlearning.hatenablog.jp

災害が発生したとき(もしくは発生するおそれがあるとき)には,災害対策本部という機関が設置されるのでした。今回の能登半島地震でも内閣府に特定災害対策本部が置かれ,のちに非常災害対策本部に引き上げられました。

このような災害大国である日本において防災体制について定められた法律が「災害対策基本法」です。1959年に伊勢湾台風紀伊半島から東海地方にかけて大規模な被害(死者・行方不明者5000人超)をもたらしたことで,災害被害を少しでも抑えようと1961年に制定されました。ちなみに現在でもほとんど毎年のように修正されているようです。それほどまでに日本ではいろいろな災害が起こり,それを教訓にしてより良い法律へと書き換えられているのですね。

 

この災害対策基本法の目的は以下のように書かれています。

第一条 この法律は、国土並びに国民の生命、身体及び財産を災害から保護するため、防災に関し、基本理念を定め、国、地方公共団体及びその他の公共機関を通じて必要な体制を確立し、責任の所在を明確にするとともに、防災計画の作成、災害予防、災害応急対策、災害復旧及び防災に関する財政金融措置その他必要な災害対策の基本を定めることにより、総合的かつ計画的な防災行政の整備及び推進を図り、もつて社会の秩序の維持と公共の福祉の確保に資することを目的とする。

簡単に言うと,災害から国民を守るために,必要な防災体制について整備することを目的とするということですね。ここで,災害というのは,暴風・竜巻・豪雨・豪雪・洪水・土石流・高潮・地震津波・噴火といった自然現象または大規模な火事などを指します。

 

また,この法律の基本理念は以下のように記されています。

第二条の二 災害対策は、次に掲げる事項を基本理念として行われるものとする。

 我が国の自然的特性に鑑み、人口、産業その他の社会経済情勢の変化を踏まえ、災害の発生を常に想定するとともに、災害が発生した場合における被害の最小化及びその迅速な回復を図ること。
 国、地方公共団体及びその他の公共機関の適切な役割分担及び相互の連携協力を確保するとともに、これと併せて、住民一人一人が自ら行う防災活動及び自主防災組織(住民の隣保協同の精神に基づく自発的な防災組織をいう。以下同じ。)その他の地域における多様な主体が自発的に行う防災活動を促進すること。
 災害に備えるための措置を適切に組み合わせて一体的に講ずること並びに科学的知見及び過去の災害から得られた教訓を踏まえて絶えず改善を図ること。
 災害の発生直後その他必要な情報を収集することが困難なときであつても、できる限り的確に災害の状況を把握し、これに基づき人材、物資その他の必要な資源を適切に配分することにより、人の生命及び身体を最も優先して保護すること。
 被災者による主体的な取組を阻害することのないよう配慮しつつ、被災者の年齢、性別、障害の有無その他の被災者の事情を踏まえ、その時期に応じて適切に被災者を援護すること。
 災害が発生したときは、速やかに、施設の復旧及び被災者の援護を図り、災害からの復興を図ること。

日本という国はその自然的特性から災害が起こりやすく,常に災害を想定しながら一人ひとりが自発的に防災活動に携わり,災害が起こった場合には被災者の援護や災害からの復興を図り,過去の災害を教訓にして社会をより良いものにしていこう,というのが基本理念というところでしょうか。

 

災害対策基本法の概要

この災害対策基本法は以下の6つの要素から構成されています(https://www.bousai.go.jp/taisaku/pdf/090113saitai.pdf を参考)。

 ①防災に関する責務の明確化

 ②防災に関する組織体制の整備

 ③防災計画の作成

 ④災害対策の推進

 ⑤激甚災害に対処する財政援助等

 ⑥災害緊急事態に対する措置

 

まず,「①防災に関する責務の明確化」についてですが,こちらは国・都道府県・市町村・住民がそれぞれの立場で防災への取り組みを行うことを義務付けています。そのために各々が防災計画を作成して,それを実施しなければならないとされます。

このとき,国が作る防災計画のことを防災基本計画都道府県や市町村が作る防災計画のことを地域防災計画と呼び区別します。それぞれの階層で,災害に対してどのように対応するかの計画が定められているということですね。


そして「②防災に関する組織体制の整備」ですが,防災活動の組織化・計画化を図るための常設の機関として,国・都道府県・市町村それぞれが中央防災会議都道府県防災会議市町村防災会議を設置することとされています。この会議で災害対策に関する計画について話し合いが行われます。

一方,災害が発生したり,発生するおそれがあるような緊急の場合には,都道府県や市町村に災害対策本部を設置することとされています。とくに規模が大きい災害で,地方自治体だけでは手に負えない際には,国においても災害対策本部を設置することができ,迅速な災害応急対策の実施のための調整等を行うことになっています。能登半島地震でも非常災害対策本部が内閣府に設置されました(詳細は【気象学勉強】第83回 地震と津波 - Weather Learning Diary を参照)。


③防災計画の作成」では,防災会議の中で防災計画を作成することが示されます。国が設置する中央防災会議が防災基本計画を作成し都道府県/市町村防災会議が地域防災計画(それぞれ都道府県防災計画/市町村防災計画)を作成するということですね。


④災害対策の推進」では,災害予防・災害応急対策・災害復旧という3つの段階に分け、それぞれの段階ごとに対応が示されます。例えば,防災訓練の義務,災害に備えた物資の備蓄,災害を発見したときの通報,災害時の交通規制など,その責任者の所在と権限について述べられているようです。


激甚災害に対処する財政援助等」では,災害に伴う費用の負担等について規定されています。特に激甚な災害については,地方公共団体に対する国の特別の財政援助,被災者に対する助成等を行うとされます。

今回の能登半島地震激甚災害に指定されたことで,復興の補助が厚くなりました。

www.nikkei.com

最後に「⑥災害緊急事態に対する措置」ですが,国の経済及び社会の秩序の維持に重大な影響を及ぼす異常かつ激甚な災害が発生した場合には,内閣総理大臣は災害緊急事態の布告を発することができるというものです。しかし,未だかつて日本ではこの災害緊急事態を布告したことがないそうです(東日本大震災の時も布告されなかったようです)。

 

災害の通報・伝達について

このように災害対策基本法とは,災害被害を減らすために国から個人までの役割について述べているのですが,身近なところにおいて私たちはどう対応すれば良いのでしょうか。

 

例えば,私たち住民が災害を発見した場合には,遅延なくその旨を通報しなければならないとされています。これは上の「④災害対策の推進」に相当するものです。

(発見者の通報義務等)
第五十四条 災害が発生するおそれがある異常な現象を発見した者は、遅滞なく、その旨を市町村長又は警察官若しくは海上保安官に通報しなければならない。
 何人も、前項の通報が最も迅速に到達するように協力しなければならない。
 第一項の通報を受けた警察官又は海上保安官は、その旨をすみやかに市町村長に通報しなければならない。
 第一項又は前項の通報を受けた市町村長は、地域防災計画の定めるところにより、その旨を気象庁その他の関係機関に通報しなければならない。

誰に通報するかというと,市町村長または(陸なら)警察官もしくは(海なら)海上保安官に通報するということのようです。もし通報した相手が警察官や海上保安官の場合は,その警察官や海上保安官から市町村長へと通報が行くようになっています。さらに通報を受けた市町村長は気象庁やその他の関係機関に通報しなければならないとされます。

このように私たちには災害を目撃したときには,速やかに通報する義務があるのです。

 

避難について

その他,私たち住民が災害時に対応することとして,災害が発生もしくは発生するおそれがある場合には自分の身を守るための行動を起こすことが挙げられます。

大きな災害が発生もしくは発生するおそれがある際に避難を指示(避難指示)するのは市町村長の役割であり,それに従って私たちは対応しなければいけません。

(市町村長の避難の指示等)
第六十条 災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、人の生命又は身体を災害から保護し、その他災害の拡大を防止するため特に必要があると認めるときは、市町村長は、必要と認める地域の必要と認める居住者等に対し、避難のための立退きを指示することができる。
 (略)。
 災害が発生し、又はまさに発生しようとしている場合において、避難のための立退きを行うことによりかえつて人の生命又は身体に危険が及ぶおそれがあり、かつ、事態に照らし緊急を要すると認めるときは、市町村長は、必要と認める地域の必要と認める居住者等に対し、高所への移動、近傍の堅固な建物への退避、屋内の屋外に面する開口部から離れた場所での待避その他の緊急に安全を確保するための措置(以下「緊急安全確保措置」という。)を指示することができる。
 市町村長は、第一項の規定により避難のための立退きを指示し、若しくは立退き先を指示し、又は前項の規定により緊急安全確保措置を指示したときは、速やかに、その旨を都道府県知事に報告しなければならない。
 市町村長は、避難の必要がなくなつたときは、直ちに、その旨を公示しなければならない。前項の規定は、この場合について準用する。
 都道府県知事は、当該都道府県の地域に係る災害が発生した場合において、当該災害の発生により市町村がその全部又は大部分の事務を行うことができなくなつたときは、当該市町村の市町村長が第一項から第三項まで及び前項前段の規定により実施すべき措置の全部又は一部を当該市町村長に代わつて実施しなければならない。

以前は「避難勧告」という言葉も使われましたが,避難勧告と避難指示の違いが分かりづらかったために,2021年5月からは避難指示という言葉に一本化されました。避難指示が出された場合には,その地域の住民は四の五の言わずに必ず避難しなくてはいけません。

また,2021年5月からは「緊急安全確保」というレベル5に相当する警戒レベルの文言が変更されました(それ以前は警戒レベル5は「災害発生情報」であった)。緊急安全確保とは,避難する猶予もない切迫した状況で,自らの命を守るために最善の行動をとることを促すものです。

また,避難指示や緊急安全確保指示を出すのは市町村長の役割なのですが,市町村長が何らかの理由で指示することができない場合には,都道府県知事が代行して指示を出すことになっています。

 

また,下のように,急を要する場合や市町村長からの要求があった場合には,警察官や海上保安官が代わりに避難指示を出すこともできます

(警察官等の避難の指示)
第六十一条 前条第一項又は第三項の場合において、市町村長が同条第一項に規定する避難のための立退き若しくは緊急安全確保措置を指示することができないと認めるとき、又は市町村長から要求があつたときは、警察官又は海上保安官は、必要と認める地域の必要と認める居住者等に対し、避難のための立退き又は緊急安全確保措置を指示することができる。
 前条第二項の規定は、警察官又は海上保安官が前項の規定により避難のための立退きを指示する場合について準用する。
 警察官又は海上保安官は、第一項の規定により避難のための立退き又は緊急安全確保措置を指示したときは、直ちに、その旨を市町村長に通知しなければならない。

上をまとめると下の図のようになるでしょうか。

 

このように災害対策基本法を勉強してみると,私が災害に備えて何ができるのかを,常日頃考えておこうという気になるのです。

 

【まとめ】学習の要点

ということで,今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。

自分的メモ!
  • 災害大国である日本において,防災体制について定められた法律が「災害対策基本法」。
  • 災害対策基本法では,国・都道府県・市町村・住民がそれぞれの立場で防災への取り組みを行うことを義務付けている。
  • 災害対策基本法では,災害対策に関する計画について話し合いを行う「防災会議」を設置することとされる。国・都道府県・市町村それぞれが,中央防災会議・都道府県防災会議・市町村防災会議を設置する。
  • 災害対策基本法では,防災会議の中で「防災計画」を作成することとされる。国が設置する中央防災会議が防災基本計画を作成し,都道府県/市町村防災会議が地域防災計画を作成する。
  • 災害が発生するおそれがある異常な現象を発見した者は,遅滞なく,その旨を市町村長又は警察官若しくは海上保安官に通報しなければならない。
  • 災害が発生もしくは発生するおそれがある場合には自分の身を守るための行動を起こすことが必要である。
  • 2021年5月からは避難指示という言葉に一本化された。
  • 2021年5月からは,警戒レベル5として「緊急安全確保」という新しい警戒レベルに改められた。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。

気象の勉強の進捗について

 

ここ最近は天気図を日々見ることだけに力を注いでいましたが,天気図の見方やどこに着目すれば良いのかについては概ね理解することはできました。

一方,前線の引き方やトラフの引き方についてなど,未だにピンときていないことも多いので,こちらについては少しずつ過去の気象予報士試験問題を解きながら身に着けていけたら良いなと考えています。

 

そして再び一般知識に戻って,久しぶりに学科試験問題を解こうと机に向かいました。するとなんということでしょう,一般知識の問題を解くのにものすごく時間がかかったのでした苦笑。

人間やっていないと忘れるもので,状態方程式とか混合比とか飽和水蒸気圧の計算とかがものすごく手こずるのですね。専門知識なんかは,昨年の気象予報士試験の1か月前くらいに慌てて詰め込んでいったもんですから,当然忘れていくのも早いワケです。

 

ということで,さすがに感覚は取り戻さないといけないなぁと感じているのです。ただ通しで一度は体系的な勉強をしているのですから,感覚さえ取り戻せることができれば点数もついてくるものと信じています。

 

今年の夏の気象予報士試験に向けて,一般・専門・実技と仕事の合間を見つけながら,うまいこと勉強計画を立てなければいけないなぁとそろそろ考え始めているのです。

 

【天気図】2024年2月の南岸低気圧の天気図解析

 

つい先日,南岸低気圧について勉強したばかりです。

weatherlearning.hatenablog.jp

そこから2週間程度しか経ってませんが,2つの南岸低気圧が立て続けに日本列島の南側を通過しました。

今回はその低気圧について(気象の勉強を兼ねて)天気図を用いて解析してみました。

 

 

二つの南岸低気圧の通過

まず1個目の南岸低気圧は,2024年2月3日から4日にかけて日本列島の南を通過していきました。

こちらの南岸低気圧は,あまり発達しなかった(3日21時と4日12時とで中心気圧は1018hPaで変化がない)ことと陸地から比較的離れたところを通った(八丈島の大きく南側を通過)ことで,関東地方での降水量は比較的少なかったようです。

4日21時にはこの南岸低気圧は不明瞭になり,一方で東シナ海で新たな低気圧が発生しました。そしてこの2つ目の低気圧が今回首都圏に雪を降らせることになります。

新しく生まれた低気圧は,4日21時には中心気圧が1016hPaでしたが,5日18時には1002hPaになっていることからも,発達しながら日本の南岸を通過していったことが分かりますね。

5日15時までには東京でも雪が降り始めたようです。

上のように地上実況天気図(ASAS)を見てみると,東京に並みまたは強いしゅう雪()の現在天気の天気記号が記されていました。私が気象を勉強し始めてから,初めて確認できた東京の雪の記号ですね。

weatherlearning.hatenablog.jp

 

そして東京に雪をもたらしたこの南岸低気圧は閉塞しながら八丈島の少し北側を通過後,日本の東の海上へと抜けていきました。

3日9時から6日12時までの雲の様子を赤外画像から抽出し,それをアニメーションにすると以下のようになります。

1つ目の低気圧はあまり目立ちませんが,2つ目の低気圧は白くて厚い雲を伴って日本列島に覆いかぶさってきたのが分かりますね。動画で見るとやはり分かりやすいし面白い。

 

上空のトラフと低気圧の発達

ここまでに書いてきたように,2つ目の低気圧は日本の南岸を発達しながら進みました。では何故,この低気圧は発達したのでしょうか。

 

ここで上空のトラフ(等高度線が南側に張り出した領域)が重要なポイントになってくるようです。トラフの進行方向前面に低気圧中心があると,その低気圧は発達することが知られているからです。

weatherlearning.hatenablog.jp

 

下の図のように,上空500hPaの高層天気図と地上天気図を重ね合わせてみました。黒が高層天気図,赤が地上天気図です。

2月4日21時に2つ目の南岸低気圧が発生したときの天気図。

地上低気圧中心(赤✕印)の西側に上空のトラフ(黒太線)が位置していることが分かりますね(トラフの引き方はよく分かっていない,向きとか長さとか傾きとか。とりあえず感覚で引きましたw 詳しい方がいらっしゃったら教えてください)。おそらくこのトラフと結びつきを強めて低気圧は発達したものと考えられます。

 

5日9時の図。徐々に西側のトラフが近づいてきました。

 

5日21時。トラフはだいぶ浅くなったようで,低気圧中心とほぼ同じ位置まで近づきました。

このとき低気圧は最盛期を迎え,閉塞前線が形成されます。

 

気象の勉強を始めた1年前は,気象予報にトラフ解析が重要だと教科書で書かれていたのを見て今一つピンときませんでしたが,ここ最近天気図を見ていてようやくその大切さを少しずつ実感してきました。上空のトラフに着目することで,低気圧の盛衰を読み取ることができるのですね。

 

東京の気温変化

そしてトラフと結びついて発達した低気圧は,都心で雪を降らせました。東京では8センチの積雪だったようです。

このとき気になるのが,東京都心の気温ですね。

一般的に,地上気温が6℃を下回ると(湿度が低ければ)雪の可能性が考えられ,2℃以下で雪の可能性が高くなります

 

この日の東京の気温変化をグラフで見てみると下のようでした(気象庁|過去の気象データ検索より)。

12時頃には地上気温が5℃だったものの,1時間後の13時には気温が2℃以下まで低下していますね。気温が一気に下降したことが分かります。

この気温の急降下がなぜ起こるかというと,おそらく関東平野に形成される滞留寒気層の影響ではないかと思います。

南岸低気圧が接近する前から先行して雨が降り,その時に上空から落ちてくる雨粒(もしくは雪片)が地上に到達する間に蒸発(もしくは昇華)し水蒸気に変わるときに周りから熱を奪います。これにより気温が急激に低下して滞留寒気層が形成され,南岸低気圧に伴う降水域が接近すると,降水は雪となって地上に舞い降りるのですね。関東平野は地形上,寒気が滞留しやすく,高度数百m程度の寒気の層ができるのだそうです。

 

地上気温が非常に低くなったことで,東京の降水は雪となり,低気圧の発達と相まって今回の積雪につながったということですかね。5日の午後から6日の朝にかけて東京では雪が降り続きました。

 

ライトバン

最後は,このような雪の日に見られるライトバンについて。

X(旧Twitter)などを眺めていると,千葉県柏市においてブライトバンドが見られたというツイートで盛り上がっていました。

雨雲レーダーを見てみると,5日20時頃に,確かに柏市で円形の強い降水域が確認できました。スクショしておきました。

 

ライトバンドは通常もっと輪ゴムのようなリング状に写りますが(下図;雨雲レーダーにリング状の模様「ブライトバンド」が出現 - ウェザーニュース (weathernews.jp)より),こんな小さな円として写ることもあるんですね。

雨雲レーダーにリング状の模様「ブライトバンド」が出現 - ウェザーニュース

 

このブライトバンドができる理由は、上空に融解層(みぞれの層)があるためで,ここで降水が強いというワケではないので注意が必要です。いわゆる偽モノの強いシグナルが観測されているのですね。

上空から落下してきた雪片は,地上に近くなると融けて雨粒に変化します。雪片と雨粒の中間の状態,いわゆる「みぞれ」の状態のとき,雨滴よりも粒が大きくなり,周りが水で覆われることになります。

気象レーダーの電波は,固体よりは液体の方が,また粒子が大きい方がよく反射するという性質があり,(実際には強い降水がないのにも関わらず)局所的に強いエコーが気象レーダーによって観測されるのです。

 

今回のブライトバンドが非常に小さいのは,みぞれの層が上空の低い高度に形成されたからなのかもしれません。

 

いずれにせよ,このように地図上に隠れている気象に関連するイベントを探すのは,隠れミッキーを探し当てるくらいには楽しめそうです。

 

まだまだ分からないことがたくさんありますが,天気図を眺めながら実際の天気に照らし合わせると,今まで知らなかったことがいろいろと見えてきますし,見識が広がるように感じます。

 

 

天気図理解のメモ
  • トラフの進行方向前面に低気圧中心があると,その低気圧は発達する。
  • 上空のトラフに着目することで,低気圧の盛衰を読み取ることができる。
  • 地上気温が2℃以下になると,湿度が高くても雪になりやすくなる
  • 関東平野は地形上寒気が滞留しやすく,雨雪が降り始めると大気から熱が奪われ,気温が急激に低下し,これが滞留寒気層を形成する。
  • ライトバンドという偽のエコーが観察されることがある。これは上空に融解層(みぞれの層)があるため。

 

(以下,あまり理解できてないポイント)

  • トラフの引き方(曲がり方,引く長さなど)

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。

【空観察】2024年1月の空の観察

 

2024年も1か月に撮影した空模様をとりとめもなく振り返っていきます。

明日は第61回気象予報士試験があるようです。私は今回スキップしました。また次回ですね。

今はとにかく日々の天気図を眺めながら,基礎的な解析方法を学んでいる状態です。

 

なんだかこの一か月は曇り空が多かったように思います。内勤が多いので,休日にしか空を眺める機会があまりなくただの勘違いなのかもしれませんが。

低い黒い雲が頻繁に観察されました。こちらは乱層雲でしょうか。

雲粒や雨粒をたくさん含んでいる雨雲は光を通しにくいので黒くみえるのですね。

 

太陽もなかなか姿を現さない日も多かったように思います。

 

久しぶりに山に登り,心身ともにリフレッシュしてきました。

 

2024年も気象の勉強を継続していけたらと思います。

 

【天気図】2024年1月の南岸低気圧から学ぶ天気予報の難しさ

 

2024年1月20から21日にかけて,関東南部の平野部でも積雪の可能性が予報されていました。

結局は雪は降らなかったんですが,SNSでは天気予報が外れてガッカリした声や安堵の声などいろいろな意見で溢れていたようですね。

個人的には,雪に不慣れな都心で雪が積もらなくて良かったと思っていますが,今回の雨や雪の予想は特に難しかったようなのです。それは,今回通過した低気圧が南岸低気圧という太平洋側を中心に雨や雪をもたらす低気圧だったからだそうですが,どうして南岸低気圧だと天気予報が難しいのでしょうか?

良い機会ですので,天気図も眺めながら勉強していくことにしました。

 

 

南岸低気圧とは

以前,南岸低気圧については少しだけ言及しています。

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南岸低気圧とは日本列島の南岸を通過する温帯低気圧のことで,特に秋から春にかけて発生することが多く,東京都心で雪が降る場合にはほとんどがこの低気圧が関係しています

南にある低気圧なので何だか暖かそうなイメージを持ちますが,実際にはその低気圧中心に向かって北からの冷たい空気が入りこむので,その空気の通り道となる日本列島に寒気が流れ込みやすくなります(下図)。

上の図では低気圧の北側で等圧線間隔が狭くなっており,風が強く寒気移流が強くなっていると考えられます。一方,寒冷前線温暖前線で挟まれた暖域では南からの暖かい風が入って暖気移流となるようですね。

冬の雪といえば西高東低の冬型の気圧配置が思い浮かびますが,南岸低気圧の場合はそれとは異なったメカニズムで雪が降るそうです。

西高東低の冬型の気圧配置の場合は,大陸から吹き出す冷たい空気が日本海上で気団変質して雲が作られます。それらの雲が日本海側の地域で雪を降らせるのでしたね。

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一方,南岸低気圧の場合は,低気圧に伴う降水がそのまま太平洋側の地域で雪や雨を降らせるのです。

すなわち,降水の原因となる雲のつくられ方,そして降水がある地域も大きく異なるということですね。

 

では冬の南岸低気圧が必ず太平洋側に雪をもたらすかというと実際そうでもないのです。

そこには気温と湿度が大きく関係してきます。

 

雨雪判別図

下は雨雪判別図と呼ばれる雨と雪とを判別する目安を示した図です(雨と雪の境目(雨雪判別表) (ngy.sakura.ne.jp)より引用)。

横軸に地上の気温,縦軸に地上の湿度がとられており,その交点から雨か雪かみぞれかを判定します。

上のように3つのポイント(赤丸)を取ってみました。例えば湿度が30%であれば地上気温が7℃であっても雪が降る可能性があります。湿度が低ければ地上気温は高くても雪になるのですね。

ではなぜ湿度が低いと気温が高くても雪が降るのでしょうか?

 

洗濯物を湿度の低い日に干すとすぐに乾くのは皆さんご存知の通りです。それは,洗濯物に含まれる水分が,水分の少ない空気中に移動しやすいからです。このとき水は水蒸気に変化し,周りから熱を吸収するので洗濯物やその周囲の温度は実は少しだけ下がります。これが状態変化に伴う潜熱というやつですね。

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これと同様に,雪が湿度の低い日に落ちてくると,雪の表面から氷が水蒸気に昇華します(氷が水になって水蒸気になるのが一般的ですが,氷から直接水蒸気に変化することを「昇華」といいます)。このとき氷は水蒸気に一気に変化するので,周りから大量の熱を吸収することになります。その結果,氷とその周りの温度が下がります。すると,雪の結晶の周りは温度が周囲に比べて低い状態になっているため,地上の気温が比較的高くても雪は溶けることなく地上まで降り注ぐことができるのですね。

 

 

話を雨雪判別図に戻します。上図の赤丸で示した点で,湿度が50%で地上気温が5℃のときは雪になると判別されています。そして湿度はそのままで1℃気温が高くなった6℃になると今度は雨になると判別されていますね。北海道のように明らかに氷点下であれば雪の予測は容易でしょうが,首都圏は冬でもちょうどこのあたりの絶妙な温度・湿度分布になるため,たった1℃違っただけでも雪になるか,雨になるかが大きく異なってくるようです。これが南岸低気圧の雪予報の難しさの一つの原因のようです。

さらに,南岸低気圧の天気予報の難しさには低気圧の通過位置が大きく関わっています。

 

南岸低気圧の通過位置

下は過去,東京で雪が降った時の南岸低気圧をいくつか選んで示した天気図です(過去の天気 - 日本気象協会 tenki.jpより引用)。

 

2015年1月30日

東京の南側の海上を低気圧中心が通り過ぎたようです。wikipedia調べによると,東京では3cmの積雪になりました。

 

2018年1月22日

こちらも,東京の南側の海上を低気圧中心が通り過ぎていきました。東京では23cmの積雪があったようです。

 

2020年3月29日

こちらも同じような感じ。東京では1cmの積雪。

 

2022年1月6日

この日は低気圧本体は陸地から離れた場所を通過しているように見えますが,八丈島近海でシアラインが形成され新たに低気圧が発生したそうです。東京では10cmの積雪となりました。

 

このように,過去に東京で雪が降った時は,だいたい東京の少し南側の海上を低気圧が通過している傾向がありそうです。

 

上の図は関東の南海上にある低気圧の周りの降水をもたらす雲域が広がる様子を示しています(気象庁|予報が難しい現象について (jma.go.jp)より引用)。

左の図のように,低気圧が陸地に近いところを通過した場合は,南からの暖かい空気が 陸地に流れ込みやすくなって雨になる可能性が高くなります。逆に,右の図のように低気圧が陸地から遠いところを通過した場合は,そもそも雲がかかりませんので,東京では降水は認められなくなります。

真ん中の図のように,東京に雲域がかかり,かつ寒気が入り込む状況になって初めて雪が降る可能性が考えられるのです。

 

当然ながら,雲域の幅はそれぞれの低気圧でまちまちですので,低気圧の通過位置と降水をもたらす雲域の両方に正確な予測が必要となり,予報が難しくなります。

ちなみに,これまでの経験上では,八丈島より北側を通ると雨の確率が高く,八丈島付近(もしくは少し北側)で雪の確率が高いと言われているようですが,一概にこの規則も当たるわけではなさそうです。

関東地方に雲がかかった場合には,(湿度にも大きく依存しますが)地上気温が6℃を下回ると雪の可能性が考えられ,2℃以下で雪の可能性が高くなります。また,一般的に上空850hPa(約1500m)の気温が-6℃であれば雪が降る可能性が高いといいますが,関東平野には寒気が滞留しやすく,上空850hPaの気温が-3℃程度でも雪が降る目安の一つとなっているようです。

 

2024年1月の南岸低気圧

では最後に,今回の東京にも雪が予報されていた南岸低気圧のコースを見てみましょう。

 

2024年1月20日21時。低気圧は宮崎県近くを通過していました。

2024年1月21日3時。低気圧中心は気圧を下げ徐々に発達しながら南岸を通過中。

2024年1月21日9時。引き続き発達しながら南岸を通過中。

2024年1月21日12時。東京に最も接近しました。

2024年1月21日21時。閉塞して徐々に日本から遠ざかっていったようです。

今回のコースを振り返りますと,南岸低気圧八丈島のだいぶ北寄りのコースを通ったことになりますね。経験則から照らし合わせてみると,今回東京では雨になる可能性が高いことになります。

また,一般的に雪の目安となる850hPa面高層天気図の-6℃の温度線をなぞってみると以下のような感じでした。

関東地方は上空約1500mの気温が6℃程度で,雪になるにはあきらかに気温が高いように思います。

そして事実,東京都心は雪は降らず,雨だったそうです。


天気予報は外れましたが,最悪の事態を想定し注意を喚起することが天気予報の本来の目的ですので,外れたからと言って目くじらを立てるのはお門違いでしょう。


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南岸低気圧に関しては,いずれ雪が降った時に詳しく天気図解析したいと思います。

 

 

天気図理解のメモ
  • 日本列島の南岸を通過する温帯低気圧を「南岸低気圧」という。
  • 南岸低気圧は,秋から春にかけて発生することが多く,東京都心で雪が降る場合にはほとんどがこの低気圧が関係している。
  • 南岸低気圧の通過に伴い,北からの冷たい空気が低気圧に向かって入るため,日本列島に寒気が流れ込みやすくなる。
  • 南岸低気圧は,低気圧に伴う降水がそのまま太平洋側の地域で雪や雨を降らせる。
  • 南岸低気圧では,低気圧の通過位置と降水をもたらす雲域の両方に正確な予測が必要となるため,雨か雪の予報は難しい。
  • 八丈島付近を境にして,これより北を通ると雨の確率が高く,八丈島付近(もしくは少し北側)で雪の確率が高くなると言われている。
  • 地上気温が6℃を下回ると雪の可能性が考えられ,2℃以下で雪の可能性が高くなる。
  • 関東平野では滞留寒気の層が形成されやすいため,上空850hPa(約1500m)の気温が-3℃以下であれば雪が降る目安の一つとなる(日本海側では上空850hPaの気温が-6℃以下が雪の目安)。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。

【天気図】前線解析①~等温線と前線~

 

実技試験問題を解いていると前線を解析させる問題によく出くわします。というかほぼ毎年のように前線解析は出題されています。

しかし,実際に問題を解いて回答と照らし合わせてみても,なんだかちょっとズレていたり(まったく見当違いなところに引いていたり),簡単そうに見えて思っていた以上に苦戦するのです。

 

今回は私が前線解析をいまひとつ理解できていませんので,その点を共有しつつ,どう解析すれば良いのかを過去の天気図を参考にして勉強していくことにします。今回は等温線と前線との関係について過去事例から考察していきます。

 

 

温暖前線寒冷前線

まずは2023年11月17日9時の天気図を見ていきます。この日,地上天気図上には日本海と太平洋にそれぞれ温帯低気圧があり日本を通り抜けていきました。二つ玉低気圧というやつですね。

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この日時における850hPa気温・風,700hPa鉛直流解析図(AXFE578から取得した初期時刻の天気図)を下に示します。

黒の太い実線が850hPaにおける等温線になります。一方で網掛けされた部分は鉛直P速度を表しており,網掛け部分が上昇流域,それ以外の白抜き部分が下降流域に相当します。

ここに2つの低気圧があるのですが,矢羽根に着目して低気圧循環があるところ,そして鉛直P速度の極値(上昇流の極大値)さらに温度線が高緯度側に張り出している領域(前線の前面で暖気が入って後面で寒気が流入するため)などを参考にすると,だいたい低気圧中心の場所の見当がつきそうです。

 

ここに同時刻の地上の実況天気図(ASAS)を重ね合わせてみましょう。解析図は赤く,地上実況天気図は黒く表示することにします*1

線が混み合っていますし,少し薄くて見づらいのですが,高層天気図上の低気圧循環の近くに2つの地上低気圧中心があり,そこから温暖前線寒冷前線が伸びているのが分かりますね。

前線の場所を850hPa気温分布に書き写してみると,下のようなオレンジ線に。青矢印は風の向きを表しています。

前線が等温線に概ね沿っているのが分かりますね。

日本海側にある低気圧の温暖前線寒冷前線ともに3℃の等温線に沿っているのが見て取れます。一方太平洋側の低気圧は,温暖前線が9℃,寒冷前線が12℃の等温線に沿っていました。

このことから,等温線が前線解析に有用になり得ると考えられます。そして事実,等温線の集中帯の南縁付近が前線解析をする際に用いられるそうです。これは,前線とは一般的に冷たい空気と暖かい空気がぶつかるところにできるので,前線を挟んだ温度傾度が大きくなることで説明できます。

 

では上の図を参考にして,どのような特徴のある部分に前線が書かれているでしょうか。

まず気づくのが,前線が引かれている部分の周りに網掛け領域(すなわち上昇流域)が広がっているということでしょう。特に前線付近では温度差が大きいことから,暖かい空気が冷たい空気の上に滑昇して上昇気流が発生しやすくなります。

また前線付近の風に着目すると,上の図の青い線で示したように,特に寒冷前線を隔てて風向が大きく変化していることが分かります。一方温暖前線では,前線を隔てて風向の変化が明瞭ではない場合もあり,そういった場合は風速の違いに着目するのも一つの手段なんだとか。今回の日本海側の低気圧の温暖前線については,前線を挟んで風向・風速の変化が明瞭ではないように私には思えるので,何故ここに温暖前線が引かれるのかは私が理解できていないポイントの一つです。

あとは,前線をどこまで引けば良いのかという点ですが,ここも正直私がよく分かっていない点。上昇流域が認められるところまで前線を引くという考えもあるようですが,上の天気図では,温暖前線は上昇流域の途中で線が止まっているので,これがどういった考えに基づいて引かれたのかは分かりかねる状況なのです。


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別の日の2023年12月7日はどうでしょうか。先ほどと同様に,AXFE578から取得した初期時刻の天気図を見てみます。

北海道の西側に-123hPa/hという強い上昇流域が認められ,この付近に地上低気圧中心が位置していました。地上天気図を重ね合わせるとこのようになります。

地上前線を書き写してみると,下のようなオレンジ線になります。

こちらも寒冷前線が0℃の温度線,温暖前線が3℃の温度線に概ね沿っているようです。一般的に,寒冷前線温暖前線に挟まれた暖域では強い風が観察されるようで,40ノット前後の風が吹いていました。

温暖前線を挟んだ風向・風速の変化については,やはりあまりピンときておらず,明瞭ではなさそうだなというのが個人的印象です。

 

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さらに別の日,2023年12月31日の天気図を見てみます。

-110hPa/hという強い上昇流域が認められる八丈島付近に地上低気圧中心が位置していました。

前線を書き写すとだいたい9~12℃の等温線にわたって引かれている感じでしょうか。気象予報士のお姉さん曰く,前線が1本の温度線に沿って描かれる必要はなく,温度線集中帯南縁の中でどこに風のシアーがあるかを理解して引くことが重要のようです。


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今回の場合,温暖前線を見てみると暖域で45ノット近くの風が吹いていますが,前線の北側では30ノット程度と相対的に弱くなっており,これが前線を挟んだ風速差ということでしょうか。

 

前線(特に温暖前線)の解析は未だにピンときていない点も多いのですが,上のように日々の天気図を重ね合わせたりして見慣れてくると徐々に感覚がつかめていくのかもしれません。もし詳しい方いらっしゃったら教えてください。

今回は温暖前線寒冷前線と見てきましたが,低気圧が発達して最盛期を迎えるころには閉塞前線が見られるようになります。閉塞前線についても勉強して,近いうちに記事にまとめようと思います。

 

梅雨前線の解析

ここまで見てきたとおり,等温線集中帯から前線を解析する方法は有用そうですが,これがなかなかうまくいかない場合が存在します。梅雨前線の解析です。

 

下は2023年5月31日の850hPa気温・風,700hPa鉛直流解析図です。

等温線間隔がそこそこ広く,等温線集中帯があまり明瞭ではないように見えます(少なくとも私の目からは)。一般的な寒冷前線などは冷たい空気と暖かい空気がぶつかるところにできるので前線を挟んで温度傾度が大きくなるものですが,梅雨前線の場合はそうではないのですね。

地上天気図との重ね合わせると,下のような位置に梅雨前線は通っていました。

 

この梅雨前線がどのようにして形成されるかというと,(主に西日本で)暖かい乾いた北側の空気と,暖かく湿った南側の空気がぶつかる場所にできるようです。すなわち南北の空気がどちらも暖かく,温度に大きな差がないのですね。その代わり,空気に含まれる水蒸気量が南北で大きく違うようなのです。

とすると,等温線ではなく等相当温位線を使った方がうまくいくだろうと考えられます。相当温位というのは空気の温度に加えて,空気の湿り具合を考慮した指標だからです。

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そこで,この時刻を予想した850hPa相当温位・風12時間予想図を見てみましょう。

等温線ではあまりパッとしなかった集中帯が,等相当温位線で見るとハッキリと観察されるようになりました。

ここに地上天気図を重ね合わせますと下のようになりました。

オレンジ色で示した梅雨前線が,等相当温位線の南縁に沿って引かれていることが分かります。黄海あたりでは線が少しズレていますが,これは相当温位が12時間前を初期時刻とする予想された値であるため誤差が生じたからだと推察しました。

特に今回の梅雨前線では,前線を挟んだ南北で風向が大きく違っており,北側では北~北東よりの風,南側では西よりの風が吹いているのが分かります。

 

 

このように等相当温位線もまた前線解析に有用であることが考えられます。そして,(梅雨前線などの解析のように)等相当温位線の方が等温線よりも,適用性が高そうな印象も受けました。

もう少し具体的に等相当温位線と前線との関係について,また今度見ていくことにします。

 

 

天気図理解のメモ
  • 等温線の集中帯の南縁付近が前線解析に用いられることがある。
  • 前線が1本の温度線に沿って描かれる必要はなく,温度線集中帯南縁の中でどこに風のシアーがあるかを理解して引くことが大切。
  • 一般的に寒冷前線温暖前線に挟まれた暖域では強い風が吹く。
  • 寒冷前線では,前線を隔てて風のシアーが明瞭に認められることが多く,風向の変化,風速差から前線を解析する。
  • 温暖前線では,前線を隔てて風向の変化が明瞭ではない場合もあり,そういった場合は風速差にも着目する。
  • 梅雨前線は等温線からでは見つけられないことがある。
  • 梅雨前線(特に西日本)では南北の温度差は小さく,南北の空気の水蒸気量の違いが大きいため,等温線ではなく等相当温位線の集中帯南縁付近から前線解析する。

 

(以下,あまり理解できてないポイント)

  • 前線を挟んだ明瞭な風のシアーがない場合の温暖前線の引き方。
  • 前線をどこまで伸ばして,どこで止めるかのさじ加減。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。

*1:GIMPという無料の画像編集ソフトを用いて2つの図を重ねました

【天気図】天気図上の距離の測定

 

実技試験問題を解いていると,24時間に移動した距離から低気圧の速度などを答えさせる問題が散見されます。

しかし,こういった問題に慣れていないと計算が思ったように捗らずに時間だけが過ぎていくんですよね。そこで今回は天気図上の距離についてきちんとまとめてみました。

 

 

経度と緯度

東京は東経140度,北緯36度に位置する都市です。このように,地球上のあらゆる位置は,経度緯度(と標高)を指定することによってただ1つに特定されます。

 

経度とは,ある地点(例えば東京)・南極・北極の3点を結んだ地球の切り口の断面と,基準となる本初子午線が作る地球断面とのなす角度で表されます。

本初子午線よりも東側(アジア側)だと東経,西側(南米アメリカ側)だと西経と言い,それぞれ180度まであります。よって東経180度と西経180度は一致します(180度経線 - Wikipedia)。

 

一方,緯度とは,赤道を0度として,そこから南北にそれぞれ90度まで表します。北半球であれば北緯と言い,南半球であれば南緯と呼ばれます。下の図が分かりやすい。

例えば,アメリカのニューヨークは西経74度,北緯40度に,オーストラリアのシドニーは東経151度,南緯33度に位置する都市だと表現できるのですね。また,北極点は北緯90度(経度は存在しない),南極点は南緯90度(同)の地点となります。

 

上記のような座標によって位置を表すという考えは思っていた以上に古い時代まで遡り,紀元前のギリシャや中国ですでに考えられていたようです。ただし当時の測量技術では誤差が非常に大きかったため,実用的な経度・緯度の登場は19世紀になるまで待たなくてはなりませんでした。

 

1870年代にグリニッジ天文台を通る経線が世界の基準となり,現在はグリニッジ天文台の西に100mほど離れた「国際基準子午線(IERS基準子午線)」が本初子午線となっています。

この本初子午線を基準にして「UT1」という時刻が作られており,非常に正確な時刻を刻む原子時計と組み合わせることで「協定世界時UTCCoordinated Universal Time」と呼ばれる現在日常的に使用されている時刻ができているようです。

 

以上のように,日常的に使われる時刻が作られた経緯は非常に複雑なので頭がこんがらがってしまいますが,

 ・経度や時刻の基準となる本初子午線はもはやグリニッジ天文台を通っていない

 ・グリニッジを基準とした時刻(GMT)がかつては世界基準時刻だったが,今の世界時刻の基準は「UTC

であることを押さえておけば,飲み会のうんちく話に花が咲くこと請け合いでしょう。

 

天気図を見てもちゃんと「UTC」で時刻が表現されていますね。

 

海里とキロメートル

ここまで地球の座標を与える経度と緯度について話をしてきましたが,この経度と緯度にはその距離に大きな違いがあります。

地球上どこでも緯度1度は同じ距離なのに対して,経度については(その地点の緯度によって)経度1度の距離は異なるのです。

 

下の図(緯度経度より 2点間の距離を計算 | 有限会社 エス技研 (s-giken.info)より引用)を見たら分かるように,緯度は経度が変わっても1度あたりの距離は変化しませんが,経度については高緯度になるほど1度あたりの距離は短くなっていきます。

では,緯度1度あたりの距離は地球のどこでも変わらないということであれば,その距離はどう計算されるのでしょうか。

 

地球の一周の長さは4万kmであるので,それを360等分したものが緯度1度に相当しますね。

計算してみると,

  緯度1度  = \dfrac{40000}{360} = 111 (km)

となりました。

また,1海里は緯度1度を60等分した距離に相当しますので,

  緯度1度  = 60 (海里)

と記述することができます。

 

また,これらの式から,1海里は

  1海里  = \dfrac{111}{60} = 1.852 (km)

であることも導き出せます。

 

一方,経度については赤道上では経度1度=111kmが成り立ちますが,北緯60度になると経度1度=56km (=111×cos60°)と半分になるのです。

 

よって地図上で距離を知りたいときは基準となる長さを知れば良いわけですが,その基準となるのが緯度1度の長さになるのです。

 

天気図上の距離の測定

長くなりましたが,ここでようやく本題に入ります。

今,下の天気図上のA地点とB地点の距離を測りたいと思います。定規を使っても良いとします。

 

まずは,地点A(韓国済州島)と地点B(秋田市)との距離を求めてみましょう。

そこで,緯線の長さを基準として,済州島と秋田が入っている緯度の範囲(だいたい北緯30度~40度)で考えたら良い近似ができそうです。

定規でこの地図における緯度10度分の長さを測ったところ6.8cmでした。緯度1度が60海里(111km)に相当しますので,緯度10度分は600海里(1110km)になります。

済州島秋田市を結んだ線の長さを求めると8.4cmになりました。

このことから単純な比例計算を用いると,済州島秋田市の距離は,

   600 × \dfrac{8.4}{6.8} = 741 (海里)  あるいは

   1110 × \dfrac{8.4}{6.8} = 1371 (キロメートル)

と求められました。

済州島秋田市の実際の距離は約754海里(1397km)だそうですので,誤差5%以内に収まっているということでそこそこ精度良く近似できているかと思います。

 

 

ではお次。

今度は上のように地点A(鹿児島)と地点B(稚内市)との距離を求めてみることにします。

このとき2地点は10度間隔に刻まれる緯線をまたいでいるので,それらの地点が入るように基準となる緯度の範囲は大きく取ってあげるのが良いでしょう。なぜなら,緯度1度の距離は地球という球体上ではどこでも同じですが,地図という二次元の世界に圧縮したときには長さは異なってくるためです。

上のように,北緯30~40度は6.8cmですが,北緯40~50度では6.2cmとなり,球体上では同じはずの距離も地図上では違ってくるのですね。

よって鹿児島と稚内の含まれる北緯30~50度にわたる20度の範囲を基準として計算する方が良さそうです。

定規でこの地図における緯度20度分の長さを測ったところ13cmでした。この距離は1200海里(2220km)に相当します。

 

ここで,鹿児島と稚内市を結んだ線の長さを求めると10.8cmでした。

計算すると,2地点間の距離は,

   1200 × \dfrac{10.8}{13} = 996 (海里)  あるいは

   2220 × \dfrac{10.8}{13} = 1844 (キロメートル)

と求められました。

鹿児島と稚内市の実際の距離は約981海里(1817km)だそうですので,こちらもそこそこ精度良く近似できているかと思います。

これを北緯30度~40度の10度分だけを基準にして計算すると

   600 × \dfrac{10.8}{6.8} = 951 (海里)  あるいは

   1110 × \dfrac{10.8}{6.8} = 1762 (キロメートル)

となるので,こちらで計算した場合は少しだけ精度は劣ることになります。

 

ハイ,これで天気図上の距離を測定するのは大丈夫そうです。

とにかく長さは緯度の角度を基準にして取るということですね。決して経度の角度を基準としてはいけない(いけなくはないが,cosθという三角関数が必要になり非常に計算が面倒)ということです。

 

天気図理解のメモ
  • 地球上どこでも緯度1度の距離は同じであるのに対して,経度については(その地点の緯度によって)経度1度の距離は異なる。
  • 緯度1度=60海里=111km
  • 1海里=1.852km
  • 天気図上で距離を計算する場合は,緯度10度単位の長さを基準にして計算してやると良い。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。

【気象学勉強】第83回 地震と津波

 

2024年になりましたが,元旦には能登半島で大きな地震が起こり多大な人的・物的被害が出ました(令和6年能登半島地震)。地震発生に伴って津波注意報津波警報そして大津波警報が北陸の各地で発表*1されています。そこで,今回は地震津波について勉強していくことにしました。

 

 

地震の発生メカニズム

日本周辺は,北側の北米プレート,東側の太平洋プレート,南側のフィリピン海プレート,西側のユーラシアプレートの4つのプレートが接する場所となっています(下図;気象庁 | 地震発生のしくみ (jma.go.jp)より引用)。

このプレートというのは,地球の表面を覆う岩盤のことで厚さはおよそ100kmほどあり,(大小さまざまな規模のものが知られているものの)地球表面は大規模なもので十数枚のプレートにより覆われています。

これらのプレートは各々固有に運動しており,特に,異なるプレート間の境界では2枚のプレートの異なる動きによるひずみが生じやすいため地殻変動が起こりやすいのです。

 

下の図はプレートの分布と地震発生場所とその規模を表した図ですが,プレートの境界で地震が特に多いことが明瞭です。

ロシアやヨーロッパ,ブラジルなどの国では地震はほとんど起こらないと聞きますが,それはこれらの国々がプレート境界から遠く離れた場所に位置するためです。一方で冒頭に述べたように,日本では4枚の大規模なプレートがぶつかる場所になっているので地震が非常に多い国となります。

さらに,石川県は北米プレートとユーラシアプレートの境界付近に位置しているため,日本の中でも地震が多い地域となっているのです*2

 

そして,地震の種類には大きく分けて海溝型地震内陸型地震の二つがあります(下図;内陸型地震と海溝型地震の特徴|命をまもるため今すぐできる備えとは? | 防災新聞より引用)。

まず,海溝型地震は異なるプレートがぶつかるちょうど境目で起こる地震です。

海洋側のプレートが陸地側のプレートの下に沈み込んでおり,陸側のプレートを地下へと引き込みます。やがて引きずりこむ力に耐えられなくなった陸プレートは元に戻ろうとバネのように跳ね上がり,この衝撃波が地震となって伝わるのです。海溝型では震源は陸から遠いため津波に警戒する必要があります。

関東大震災(1923)や東日本大地震(2011)はこの海溝型地震に分類されています。

 

一方,内陸型地震は,陸地側のプレートが断層をきっかけに大きく動いて発生する地震です。

陸地側のプレートに大きな力が働くと,地盤が弱くなっている断層帯で大きく地盤がズレるのですね。陸地側の地表近くで起こるため,震源が近く,大きな揺れが突然に起こる傾向があります。そのため内陸型地震直下型地震とも呼ばれます。

阪神・淡路大震災(1995)や新潟県中越地震(2004),熊本地震(2016)などがこの内陸型地震に分類されます。今回の能登半島地震もこの内陸型地震だと考えられているようで,内陸型地震でも津波を起こす可能性があるということを今回身をもって感じることになりました。

 

津波の発生メカニズム

今回の能登半島地震では津波が観測されました。

そもそも津波というのは,地震や火山活動など(他にも隕石落下など)による海洋に生じる大規模な波の伝播現象であるとされます。

一般的な津波の発生メカニズムは,下に添付した短い動画を見たら分かりやすいかと思います。


www.youtube.com

動画は海溝型地震を例に,地震によって物理的に持ち上げられた海水が大きな波を形成している様子をアニメ化しています。このときの波が津波となって襲ってくるわけですね。

津波が伝わる速度は地震の規模に関わらず水深が深いほど早く,水深5000mでは飛行機並みの速度で,水深100mでは電車並みの速度になります。沿岸(水深10m)になれば速度は小さくなりますが,それでも自動車並の速度で一般人が全力で走るよりもはるかに速いスピードでやってくるのです。

 

そしてこの水の力というのは非常に大きいものであり,津波によって1mの浸水があった場合には死亡率はほぼ100%になるという試算もあるようです(熱海市役所「津波の基礎知識」より引用)。

過去にも,チリ地震(1960),スマトラ島沖地震(2004)や東日本大震災(2011)などのように,地震に伴う津波によって多くの被害を出した例は世界中で多数あり,いかに津波が大きなエネルギーを持つかが理解できます。

 

最近の情報網の発達によって,津波地震の動画がYouTubeなどで見られるようになり簡単にその恐ろしさを知ることができる便利な世の中になりました。こういった動画から災害について学ぶのも防災意識を高めるきっかけになりますね。

 

津波に関する警報

今回の令和6年能登半島地震が発生した際に,気象庁から津波注意報津波警報そして大津波警報が発表されました*3。下はその時の気象庁のサイトの画像。

津波予報は青で,津波注意報は黄色,津波警報は赤,大津波警報は紫で海岸線が色付けされています。

津波注意報は,予想される津波の最大波の高さが高いところで0.2m以上1m以下の場合に発表されます。そして,津波警報は予想される最大波の高さが高いところで1mを超え3m以下の場合に,大津波警報は予想される最大波の高さが高いところで3mを超える場合に発表されます。今回の能登半島地震大津波警報が発表されましたが,これは東日本大地震以来の発表でした。

 

そして通常,地震が起こってから3分程度で気象庁から津波に関する警報が発表されるみたいです(chapter5.pdf (jma.go.jp)参照)。今回の地震も,16時10分に地震が起こってから,約2分後には最初の津波警報が発表されています。

気象庁で発表された地震速報や注意報・警報は,各放送局や携帯電話会社を通じて住民に伝達され,他にも警察・消防庁海上保安庁などにも伝達されて災害への備えに活用されます。

     

 

災害への対応

さて,今回の地震のような災害が発生したとき(もしくは災害が発生するおそれがあるとき)には,災害対策本部という機関が,国または地方自治体に臨時に設置されます。

この機関で何が行われるのかというと,避難所の運営や被害状況の把握,物資の輸送などの災害対応と意思決定がなされるようです。

weatherlearning.hatenablog.jp

 

災害が起こった場合は県や地方自治体が災害対策本部を設置することができますが*4地方自治体でも手に負えないような甚大な被害をもたらす災害の場合は国(内閣府)にも災害対策本部が設置されます*5

国に設置される災害対策本部は,その規模に応じて「特定災害対策本部*6」,「非常災害対策本部」,「緊急災害対策本部」のいずれかです。特定災害対策本部は「死者・行方不明者数十人規模の災害が起こった場合」に,非常災害対策本部は「非常災害が発生した場合」に,緊急災害対策本部は「著しく異常かつ激甚な非常災害が発生した場合」に設置されるので,緊急災害対策本部が出されたときは最も被害状況が大きいことになります。これまでに緊急災害対策本部が設置されたのは2011年の東日本大震災のときだけです。

 

今回の能登半島地震では国に特定災害対策本部が設置,その後被害の状況から非常災害対策本部に引き上げられ,今後の地震の対応が話し合われました。

www.yomiuri.co.jp

www.kantei.go.jp

内閣総理大臣である岸田首相が本部長を務め、政府一丸となって災害への対応を行うわけですね(※2021年5月までは非常災害対策本部の本部長は国務大臣が務めたが,法改正がなされ,現在は非常災害対策本部・緊急災害対策本部のいずれにおいても内閣総理大臣が本部長を務める。2021年に新しく設置された特定災害対策本部については国務大臣*7が本部長を務める)。

 

このように,災害が起きたときには様々な機関が情報伝達・共有を行いながら,迅速な対応ができるように組織体制が整備されていることを今回勉強して知ることができました。

2024年の幕開けもなかなか大変ですが,まずは個人個人の防災意識を高めることが,災害被害の規模を縮小させるための第一歩になるはずです。

 

【まとめ】学習の要点

ということで,今回学習したところで重要そうなところをメモしておきます。

自分的メモ!
  • 日本周辺では,北米プレート,太平洋プレート,フィリピン海プレートユーラシアプレートの4つのプレートが接しており,世界でも地震や火山活動が最も活発な国の一つである。
  • 日本は地震が多い国であるため,個人個人の防災意識を高めることが災害被害の規模を縮小させるためには重要。
  • 地震の種類は大きく分けて海溝型地震と内陸型地震の二つがある。
  • 津波によって1mの浸水があった場合には死亡率はほぼ100%になるという試算もある。
  • 津波注意報は,予想される津波の最大波の高さが高いところで0.2m以上1m以下の場合に,津波警報1mを超え3m以下の場合に,大津波警報3mを超える場合に発表される。
  • 災害が発生したとき(もしくは災害が発生するおそれがあるとき)には,「災害対策本部」という機関が,国または地方自治体に臨時に設置される。甚大な被害をもたらす災害の場合は,国(内閣府)に災害対策本部が設置される。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像や文章などを一部お借りいたしました。

*1:気象庁は警報や注意報を出す場合,「発令」ではなく「発表」という言葉を使うようです

*2:能登半島地震では「人工地震」であるというパワーワードが拡散しましたが,科学的にありえないので,単なるオカルトチックなデマです

*3:警報は原則として気象庁以外の者が発表することが禁じられている。ただし津波に関する警報は特例として市町村長が警報できる場合がある

*4:都道府県知事は「都道府県災害対策本部」を,市町村長は「市町村現地災害対策本部」を置くことができる

*5:災害対策基本法により規定されている;災害対策基本法 | e-Gov法令検索

*6:2021年5月より新しく設置され施行

*7:多くは防災担当大臣