Weather Learning Diary

日常的な気象予測や天気図理解ができるようになりたい気象勉強初心者のブログ

2023年12月の空の観察

 

1か月間に撮影した空の写真を月末に供養する恒例行事。

 

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2023年もあっという間に過ぎていきました。

しかし,去年の12月から気象の勉強を始めて,この1年間は天気についていろいろ勉強できたのは私にとっては幸運だったかもしれません。

気象予報士試験にもチャレンジしてみました。

結果は不合格だったんですけど,それでも自分の実力の現在地と,合格までの距離感について把握できたのはよかったかと思います。

会社が終わってから勉強というのもなかなか大変ですね。社会人をしながら資格を取得している方の大変さを知ることができました。

一日に少なくても1時間は机に向かおうと思っていましたが,それが出来ているかというとなかなか達成できていないのが現状です。

それでも土日で時間が作れるときには机に向かって平日の遅れを取り戻そうとは頑張っています。

でも1日1時間やっても365日でたった365時間なんですね。なんだかとても少ないような気がします。

勉強方法は完全に独学。本を3冊程度並行しながら読んで,あとは問題を解くだけ。それでもあっぷあっぷな状態なのです。

ここ最近は,見よう見まねで天気図解析を重点的に勉強を進めています。これがとても楽しいのです。これまで学んできた一般知識や専門知識がどのように気象に応用されているのかがようやく伏線回収されるのですね。

そしてこのブログのアクセス数も少しずつ伸びているようで,1年間で結構多くの方に読んでいただけたのは有難いことでした。

それだけ天気という分野が生活に根付いていて,裾野の広い分野になっているのだと実感できます。

いくつか更新できなかった記事もありました。例えば「温度風」とか。

そもそも私が完全に理解できているかというとそれも怪しい。

他にも結構雑に書いてしまった記事もあるので,その辺はもっと分かりやすく修正したいなぁとも思っています。実技試験を解いてみて初めて理解できたところもあったので,その点も含めて修正していきたいですね。

2024年も本ブログを更新して,自分が勉強したことを発信できたらと思います。

特に,私と同じように気象を勉強し始めたばかりの方もいらっしゃると思いますので,そういった方のお役に立てることができたら幸いです。ただし,記事内容を鵜呑みにするのではなく,あくまで参考程度にご活用してください。

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ということで今年はこれにて終了です。



【天気図】2023年師走の寒波と天気図解析

 

2023年12月中旬は目まぐるしい天候の変化がありました。

12月15日~16日にかけては,日本海低気圧に向かって南から暖かい空気が流れ込み,九州地方や東海地方,関東地方で師走ながら気温25℃以上の夏日を記録したことがニュースで報じられました。宮崎市では実に133年ぶりの12月の夏日だったようです。しかし,そこから一週間もしないうちに,この時期としては10年に一度という寒波が日本列島を襲い,日本海側を中心に大雪となりました。

そこで今回は,日本を襲った寒波の気象解析を通して,天気図の見方を勉強してみることにしました。

 

 

師走の寒波

2023年12月21日から23日にかけて,日本海側では大雪となりました。下はその時のニュース記事を引用したものです。

気象庁などによりますと、日本付近では23日にかけて冬型の気圧配置が強まり、上空約5500メートルに、北日本でマイナス39℃以下、東日本でマイナス30℃以下、西日本でマイナス24℃以下の真冬並みの寒気が流れ込んでいるということです。北日本から西日本の日本海側を中心に大雪となる見込みです。気象庁は積雪や路面の凍結による交通障害に注意を呼び掛けています。特に北陸地方では、降雪が強まっている所があるということです。
(略)

近畿北部では沿岸部を中心に降雪が続いているということですが、22日夜には日本海の発達した雪雲が流れ込み、北部では降雪が強まる見込みです。23日明け方にかけては、雪雲が予想以上に発達、もしくは雪が同じ所で降り続いたりした場合、警報級の大雪となるおそれがあります。

 

【24時間予想降雪量】
23日午後6時まで
北陸:70センチ
北海道・関東甲信・近畿・中国・東海:50センチ
中国:40センチ

TBSニュース 2023年12月23日(土) 03:51

 

この日,日本上空約5500mには強い寒気が流れ込みました。一般的に,日本海側の地方で雪の目安となるのは,本州付近で上空500hPaの気温が-30℃以下大雪の目安となるのは上空500hPaの気温が-36℃以下となるときだそうです。

 

下は21日午前9時(日本時間に換算)から24日午後9時までの,12時間ごとの500hPaにおける気温と風の分布を図示したもの。気温が色で表現され,矢印は上空の風を表すベクトルです。西の方から冷たい空気(冷たいほど青く示される)が流れ込んできているのが分かりますね。

22日,23日と寒気が日本列島を覆いましたが,23日の午後になると上空の強い寒気は東の方へと抜けて,地上では西から高気圧が張り出してきたことで冬型の気圧配置は徐々に緩んでいきました。

 

では,この時の天気図をもう少し詳細に見ていくことにしましょう。

 

天気図の解析

ここからは,私の勉強がてら天気図を見ていくことにします。

まずは地上天気図の確認からです。こちらは12月22日午前9時の実況天気図になります。

大陸には高気圧(シベリア高気圧),オホーツク海には低気圧があり,西高東低の冬型の気圧配置になっているのが分かります*1。日本列島を横切る等圧線は南北に縦に走って,等圧線間隔が狭くなることも冬型の特徴です。一般的に,日本列島にかかる等圧線の平均的な間隔が九州や四国サイズ以下のとき(もしくは列島に5本以上等圧線がかかっているとき)に「強い冬型の気圧配置」に相当するそうです。今回の場合は等圧線間隔が比較的広いので強い冬型の気圧配置とは呼べそうにありませんね。

 

天気図を拡大して,現在天気を確認してみると,日本海側の秋田・輪島・松江では過去1時間に止み間なく弱い雪()が降り続いていることが読み取れます(赤枠)。一方で東京は雲量1()の晴れであることが分かります。

このように,日本海側の地方では雪が降り,太平洋側の地方は晴れることが多くなることも冬型の天気分布の特徴です。

 

そして注目すべきは,日本海で等圧線が「くの字」に折れ曲がっていること(天気図上のオレンジ線)。これはJPCZ日本海寒帯気団収束帯)に伴う気圧の谷です。このJPCZが今回北陸地方を中心とした大雪をもたらすことになりました。

 

同時刻における衛星画像(可視画像)を見てみましょう。

まず,日本海東シナ海が全体的に白い雲で覆われているのが見て取れます。これは「筋状の雲」と呼ばれる主に積雲や層積雲で構成される雲です。一部で積乱雲といった対流性の雲も含まれます。

大陸の下層から吹く冷たい空気が,相対的に暖かい日本海*2から潜熱(水蒸気)や顕熱を受け取って気団変質(もともとシベリアでは乾燥して寒冷な空気が,日本海上で温暖湿潤な空気に性質が変わること)して,暖められた空気が対流活動を活発化させることで筋状の雲は発生します*3

ただし,積雲・層積雲から成るということからも,筋状の雲は一般的に雲頂高度は低いことが特徴です(せいぜい2000~3000m程度らしい)。

ちなみに,東シナ海の筋状の雲を見てみると,その形が異なることも分かりますね。

赤い枠も青い枠の中の雲もいずれも筋状の雲だそうですが,青枠の中の雲の方が雲が存在しない部分が多く見られます。青枠のようなハチの巣状の雲は「オープンセル型」,全体的に雲が存在している赤枠の雲は「クローズドセル型」と呼ばれます。

 

そして,日本海にある筋状の雲の写真を見るだけで上空の寒気の強さも分かるのだそうです。それは,大陸から日本海の筋状の雲が発生を始める距離離岸距離)から推定することができます。

寒気が強いと,暖かい日本海上を進むとすぐに気団変質が起こりますので,離岸距離は短くなります。もともと弱い寒気だと,海上を進んでも空気の性質に大きな変化はないので離岸距離は長くなるのです。今回の場合,大陸から日本海に入ってすぐに雲があることから,上空に強い寒気が流れ込んでいるのだろうと予想することができるのです。

 

さて,JPCZの雲の領域に着目してみましょう。

JPCZでは朝鮮半島の付け根にある長白山脈で下層の冷たい風が分岐し,日本海上で再び合流し収束することで上昇流が発生し,そこに雲が生じるのでしたね。JPCZでは主に積乱雲が発達して帯状に連なることで日本海側にドカ雪をもたらします。JPCZの中心部の雲頂高度は筋状の雲と比べると高く,約4000m程度だそうです。

 


では本当にJPCZ周辺で風が収束しているのか,また上昇流が発生しているのかについて,もう少し高層の天気図を用いて確認してみることにします。

下は地上天気図と同じ12月22日午前9時の850hPa 相当温位・風を予想した資料(FXJP854;初期時刻が12月21日午後9時の数値予想により作成された天気図)から引用したものになります*4

するとJPCZの両側をはさんで,たしかに風の水平シアがあるように感じます(が,風のシアについて解析する感覚が未だに身についていないので,正しいのかどうかはあまりよく分かっていない。間違ってたらご指摘ください)。

 

また同時刻における850hPa風・気温/750hPa鉛直p速度の高層天気図(AXFE578)*5が下になります。

図の中の実線は(850hPaの)等温線,網かけ部分が(700hPaの)上昇流域(鉛直p速度<0)。

天気図を確認すると,たしかに地上のJPCZがあるところに網掛け部分が存在しているのが分かりますね。すなわち上昇流域が広がっているのです。

そしてJPCZ付近の気温については赤く線を色づけてみました。JPCZがあるところで気温が高くなっていることが分かります(温度場の尾根となる)。これはここに雲が形成されているためだと考えられます。風向(矢羽根の向き)を確認しても,南の方から暖かい風が入り込んでいるワケでもなさそうですから。

上昇流によって空気が上空に持ち上げられると水蒸気が凝結し,それに伴い潜熱が放出されて周囲の空気よりも気温が高くなるのでしたね。そのためJPCZの帯に沿って等温線が西の方に凸になって暖かくなっているのです。

 

このように,今回北陸地方で大雪となったのは,上空の寒気が強かったことで日本海上で季節風の気団変質が起こり成層状態が不安定となり,またJPCZといった下層の風の収束も相まって雪雲(積乱雲)が列をなして北陸地方に流れ込んできたことが原因だと考えられました。

 

各地の大気の状態

ここで,興味本位ですが,各地の大気の状態の鉛直分布をエマグラムを用いて解析してみましょう。

 

まずは輪島市。今回の大雪で最も影響を受けた地域の1つです。

記録的大雪となった石川県輪島市では、雪による倒木で道路がふさがれたため、24日午前10時の時点で引き続き10の地区の97世帯が孤立状態になっています。一方、孤立状態が解消した地区では、車で通行できるようになり住民からは安心する声も聞かれました。

今回の大雪で輪島市では1929年の統計開始以来、12月としては最も多い60センチの積雪を観測し、市によりますと、雪の重みによって木が倒れて道路がふさがれている場所があります。

NHKニュース 2023年12月24日 12時00分

冒頭の地上天気図と同時刻の12月22日午前9時の輪島市の状態曲線を下に示します。

輪島では地上500hPaまで湿潤で(気温と露点温度の線が近い),概ね湿潤断熱線に沿って変化しているのが分かります。500hPaには逆転層があり,気温が上昇に転じています(寒気が下層に入ってくるため,その寒気の上の層は相対的に暖かい空気が存在して逆転層になっているということでしょうか。この辺はあまり理解できていないところ)。

そして地上から500hPaまでが寒気層であり,輪島において雲頂高度の上限はこの逆転層のできる高度になるはずです。

また,輪島では相対的に海水温が高い海域を空気が長距離にわたって吹走するため,気団変質が起こり湿潤な層が厚くなる傾向があります。

 

一方,太平洋側のつくば市館野のエマグラムに着目すると輪島とは大きく異なります。

気温と露点温度の線が離れていることから比較的乾燥していますね。700hPa付近に気温減率が変化する点があり,地上から700hPaまでが寒気層に相当するんでしょうか。

ちなみに,太平洋側が冬型になると乾燥する理由はフェーン現象(下図)で説明がつきます。日本列島の中央には高い山がそびえているため,日本海側の湿った空気が山を越えて再び下降してきたときには気温が上昇して乾燥するのですね。

 

こんな風に,季節による天候の違いだけではなく,同じ季節でも日本海側や太平洋側など場所によっても天気は大きく異なり,それは天気図やエマグラムなどにもちゃんと刻まれているのですから,それを読み解いていくのが天気図解析の醍醐味なんだと思っています(なかなか一筋縄ではいかないですけど。現在試行錯誤中)。

 

ということで今回は冬型の気圧配置について天気図解析を実施して,その内容を備忘録として長々と書き連ねておきました。解析の流れや考察などおかしな点や不足点があるかもしれませんが,私の勉強にもなりますので気づいた際はご指摘していただけましたら幸いです。

 

 

天気図理解のメモ
  • 一般的に日本海側の地方で雪の目安となるのは,本州付近で500hPaの気温が-30℃以下,大雪の目安となるのは上空500hPaの気温が-36℃以下となるとき。
  • 冬型では,日本海側の地方では雪が降り湿潤で,太平洋側の地方は晴れて乾燥することが多くなる。これはフェーン現象による。
  • 冬の日本海では「筋状の雲」と呼ばれる主に積雲や層積雲で構成される雲が発生しやすい。
  • 大陸の下層から吹く冷たい空気が,相対的に暖かい日本海から潜熱や顕熱を受け取って気団変質して,暖められた空気が対流活動を活発化させることで筋状の雲は発生する。
  • 大陸から日本海の筋状の雲が発生を始める距離(離岸距離)が短いほど上空の寒気は強い傾向がある。
  • 上空の寒気が強いと,日本海上に活発な雪雲が発達して帯状に連なるJPCZができることがある。
  • JPCZができると,地上天気図上に気圧の谷が認められ,高層天気図(850hPaや700hPa)では上昇流と温度場の尾根,風の水平シアなどが確認できる。
  • エマグラムから寒気層の厚み,気温,乾燥具合が読み取れ,太平洋側と日本海側で大気の状態の特徴に違いも認められる。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトを参考にさせていただきました。文章など一部引用していることがあります。

*1:シベリア地方では冬になると太陽から受け取る熱が減り,放射冷却によって地表面および周囲の空気が冷やされて,密度の重くなった空気が背の低い高気圧として解析されます。背が低いため,500hPa天気図では解析されません。【気象学勉強】第54回 日本の四季と気圧配置①〜4つの高気圧〜 - Weather Learning Diary 参照

*2:対馬海流などの暖流が流れている

*3:対流雲は,「積雲」と「積乱雲」が相当します

*4:850hPa 相当温位・風の資料は実況天気図が存在しないようですね。理由はよく分かりませんが。

*5:850hPaと700hPaの2つの異なる高さの情報が重ねられて1枚の中に表現されているのですね

【天気図】天気図の中の台風

 

今回は,天気図の中に描かれる台風について勉強していきます。

 

 

天気図の中の台風情報

台風については以前勉強しました。まずはここをちゃんと理解した上で天気図における台風を見ていきます。

weatherlearning.hatenablog.jp

 

下の天気図は2023年9月1日日本時間午後9時の地上実況天気図(ASAS)の一部を切り出したものです。

日本列島の南側,北緯22度~23度付近に3つの台風があるのが分かりますね。

そして下には何やら文字も書かれています。これらの記述から台風の強さや大きさなどの情報が読み取れるようです。

 

まずは最も西側にある台風について。発達中の低気圧や台風の場合には,中心位置などの情報が英文記事として天気図上に記入されています。英文情報を見てみますと,以下のように記述されています。

この記述は何を表しているのでしょうか。

ここからは,この英文情報について詳細に見ていくことにします。

 

台風の分類・名称

まず,1行目の「T 2309 SAOLA(2309)」について。

最初の「T」という文字は最大風速64ノット(33m/s)以上の台風のことで,気象庁の定める「強い台風」以上に相当するものを指します(下図;気象庁|アジア太平洋域 実況天気図の説明 (jma.go.jp)より一部改変)。

台風や熱帯低気圧の表現としては,「T」の他にも,「TD」や「TS」,「STS」があります。「TD」はTropical Depression のことで,最大風速34ノット(17.2m/s)未満の熱帯低気圧のことです。

TS」(Tropical Storm),「STS」(Severe Tropical Storm),「T」(Typhoon)は台風に相当し,中心付近の最大風速がそれぞれ,34ノット以上48ノット未満,48ノット以上64ノット未満,64ノット以上となります。

 

そして「2309」というのは,2023年台風9号を指し,「SAOLA」というのは台風につけられた名称です。熱帯低気圧が台風に変わると(最大風速が34ノット以上になると),その台風には名前が与えられるのですね。

2000年1月1日から台風には「アジア名」が用いられ,カンボジア → 中国 → 北朝鮮 → 香港 → 日本 → ラオスマカオ → マレーシア → ミクロネシア連邦 → フィリピン → 韓国 → タイ → アメリカ → ベトナム(計14か国)の順で命名権が回ってくるようですよ。ちなみに日本が命名した台風としては,「コイヌ」「ヤギ」「ウサギ」「カジキ」「コト」「クジラ」「コグマ」「コンパス」「トカゲ」「ヤマネコ」の10個があります。アジア名は14か国が各自10個の名称を出して140個決められており,141個目から最初の名称に戻って1巡する構成になっているのだそうです。

この「SAOLA(サオラ)」という台風は一番最後の140個目の名称だったようで,次に発生した2023年台風10号は「DAMREY(ダムレイ)」と1番目の名称に戻りました*1

 

台風の気圧と位置

英文情報の2行目の「950 hPa」。これは分かりやすいですね。台風の中心気圧を表します。

 

そして3行目の「22.0N 114.4E PSN GOOD」は台風の位置について書かれています。この場合なら,北緯(North latitude)22.0度,東経(East longitude)114.4度に台風の中心位置があるということです。

PSN」とは,position(位置)のことで,中心位置の確度で分類され,「Good」なら中心位置は「正確(誤差30海里≒55km以下)」,「Fair」なら「ほぼ正確(誤差30海里超~60海里≒110km以下)」,「Poor」なら「不確実(誤差60海里超)」となっています。今回の台風SAOLAの推定された中心位置の確度は正確だったということですね。

 

台風の進行方向・移動速度

現在の台風の位置が分かっても,今後どのような進路を進むかが気になるところです。

位置情報の次の4行目には,台風の進行方向と移動速度が書かれていました。

WEST 08KT」とは,西に8ノットで進んでいるということです。

進行方向については16方位で示され,「ESE」なら東南東,「NNW」なら北北西,「NW」なら北西といった感じです。速度もノットで示され,移動がゆっくり(速度が5ノット以下)であれば具体的な数値ではなく,「SLW」(ゆっくり)や「ALMOST STNR」(ほとんど停滞)と記載されることもあります(速度が5ノット以下でも,「ゆっくり」は進行方向が定まっている場合「ほとんど停滞」は進行方向が定まっていない場合に用いられる)。

 

最大風速・最大瞬間風速・平均風速

次は5行目。「MAX WINDS 90 KT NEAR CENTER」とあります。

「MAX WINDS」とは最大風速を表しており,中心付近(NEAR CENTER)の最大風速が90ノットに達していることが書かれています。

このSAORAという台風は,この時点で「T」という分類がされており,最大風速が64ノット(33m/s)以上の台風ではあるのですが,詳細な風速の値についてはここで言及されるのですね。

台風の強さは中心付近の最大風速に則って分類されており,64ノット以上なら「強い台風」85ノット以上なら「非常に強い台風」105ノット以上なら「猛烈な台風」と表現されます。

今回は中心付近の最大風速が90ノットということで,85ノット以上105ノット未満になり「非常に強い」勢力となっているのが分かります。

 

そして「GUST」は最大瞬間風速のことで,「GUST 130 KT」から最大瞬間風速130ノットを記録しているということですかね。

 

そして最後の2行。

OVER 50 KT WITHIN 50 NM」。

これは風速50ノット(ここは平均風速のこと。最大風速でも瞬間風速でもない)以上の風が50海里以内に吹いているということです。NMというのは海里のことで,Nautical Mileの略です。

平均風速50ノットはだいたい25m/sですので,この領域が暴風域に対応します(暴風域は平均風速25m/s以上の風が吹く領域と定義されている)。

 

そして「OVER 30 KT WITHIN 120 NM」。

こちらは風速30ノットの風が120海里以内に吹いているということです。平均風速30ノットはだいたい15m/sですので,この領域が強風域に対応します強風域は平均風速15m/s以上の風が吹く領域と定義されている)。

そして,台風の大きさは強風域の半径の大きさで表されるのでした。

よって,このSAOLAのこの時点の大きさは,半径120海里(だいたい半径222km,1海里=約1.852km)と計算されます。

強風域の半径が500km以上なら「大型の(もしくは大きい)台風」800km以上なら「超大型の(もしくは非常に大きい)台風」と呼んだので,今回の台風は非常に強い勢力を持っているものの,大きさはそれほど大きいというワケではなさそうです。

 

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それにしても,気象の世界ではノットであったり,海里であったりと単位が非常にややこしいですね。SI単位系に統一することはできないものなんでしょうかね。いろいろと不具合も出てきそうに思いますが,実際に気象に携っておられる方々からすると今の単位に慣れてしまって単位を変えるのは逆に困るんでしょうか。

まぁノットとか海里って言葉が海っぽくてカッコイイってのはその通りなんですけどね。

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話を天気図に戻しますが,上記の他にも前回見てきた海上台風警報[TW])が発表されていることも確認できます。

weatherlearning.hatenablog.jp

たった一枚の天気図から,さまざまな情報が得られるので,日々眺めていると大変勉強になるかもしれませんね。

 

他の台風について

ここまでは一番西に位置する台風を見てきましたが,最後は復習がてら他の台風情報についても見ていきましょう。

 

見るのは天気図の一番東側にある台風「KIROGI」について。

「2312」という数字から,2023年台風12号になります。

こちらは「TS」なので中心付近の最大風速が34ノット以上48ノット未満の台風になります。「DOWNGRADED FROM STS」と書かれていることから,「STS」から勢力が弱まったことが読み取れます(逆に勢力が強まった場合は,「UPGRADED FROM TS」などと記述されます)。

中心気圧は994hPa。

台風の中心は北緯23.0度,東経149.8度に位置し,推定された位置の確度は「ほぼ正確」となっています。

現在15ノットの速さで北西へと進んでおり,中心付近の最大風速は45ノット(当然「TS」の定義される最大風速範囲内の値になる),最大瞬間風速は65ノットとなっています。

そして,台風の北東側180海里以内およびその他120海里以内で風速30ノットの風が吹いているということも分かるのです。

 

 

 

天気図理解のメモ
  • 発達中の低気圧や台風の場合には,中心位置などの情報が英文記事として天気図上に以下のように記入される。

  

  • 台風分類,名称,中心気圧,中心位置,進行方向・速度,風速(最大風速・最大瞬間風速・平均風速)の情報が記載される。
  • 移動速度が5ノット以下の場合,進行方向が定まっているなら「ゆっくり」,進行方向が定まっていないときは「ほとんど停滞」という表現が用いられる。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。

*1:台風の名称140個についてはずっと同じ名称ではなく,一部変更もなされるようです。例えば過去に甚大な被害をもたらした台風については,その名前を刻みこんでおくためにもそれ以降は同じ名称は使用しないようにする慣例があるようです

【天気図】天気図の中の低気圧と海上警報

 

今回は,天気図の中に描かれる温帯低気圧について勉強していきます。

 

 

天気図の中の低気圧

下の天気図は2023年12月5日日本時間午後9時の地上実況天気図(ASAS)の一部を切り出したものです。

日本の南海上には低気圧があるのが分かります。その下には何やら英文が記入されていますね。

防災上の観点から,発達中の低気圧や台風の場合,中心位置などの情報が英文記事として天気図上に記入されるのです。

今回の天気図の低気圧についての英文情報を見てみますと,以下のように記述されています。

   

 

まず1行目には「DEVELOPING LOW」と書かれていますが,これは発達中の(Developing)低気圧(Low Pressure)のことを表します。発達中の低気圧とは,中心気圧または最大風速からみて,今後,中心気圧が下がるか,または最大風速が増すことが予想される低気圧のことです。

ほかにも「DEVELOPED LOW」と表記されていることがあり,これは発達した低気圧という意味です。この場合は最盛期もしくは衰弱期にある低気圧を指します。

 

2行目には「1002 hPa」とあり,これは低気圧の中心気圧になります。発達中の低気圧は,今後中心気圧が低くなっていくことが予想されるので注意が必要となるのですね。

事実,この低気圧はこの12時間後には中心気圧が996hPa,24時間後には986hPaへと変化しました。

 

3行目には低気圧の中心位置が書かれています。「30N 139E」とあり,北緯(North latitude)30度,東経(East longitude)139度に中心位置があるということです。

 

次は進行方向と移動速度。「ENE 35 KT」という表記から,低気圧は東北東に35ノットで進んでいます。

速度が5ノット以下で進行方向が定まっている場合には「SLW」(SLOWLYの略,「ゆっくり」),速度が5ノット以下で進行方向が定まっていない場合には「ALMOST STNR」(ALMOST STATIONARYの略,「ほとんど停滞」)と表現されることもあります。

 

最後の一文が少し長いですね。

EXPECTED WINDS 30 TO 50 KT WITHIN 600NM OF LOW E-SEMICIRCLE AND 300NM ELSEWHERE WITHIN NEXT 24 HOURS」。

日本語に直すと,「今後24時間以内に,低気圧の東側半円600海里以内と,その他の半円300海里以内で,風速30~50ノットに達する見込み」となります。NMというのは海里のことで,Nautical Mileの略です。

ちなみに1海里=1.852kmですから,300海里はおよそ555km,600海里はおよそ1111kmになります。

weatherlearning.hatenablog.jp

 

海上警報

そして天気図には,低気圧の情報だけでなく,他にもいろいろな情報が表現されています。

その一つとして,下の赤線に示すように,[W]などの[ ]がついた海上警報があります。実際に気象現象が発生しているか,もしくは24時間以内に発生すると予想される場合に海上警報が発表されることになっています。

たとえば「FOG [W]」と書かれているのは海上濃霧警報。視程が約500メートル(0.3海里)以下の時に発表されます。他にも強い風が吹いているときに発表される海上風警報 [W]),海上強風警報 [GW]),海上暴風警報 [SW])などがあります。また,台風が来ている場合には,海上台風警報 [TW])が発表されます(下図;気象庁|アジア太平洋域 実況天気図の説明 (jma.go.jp)より引用)。

風速や発表基準の数値については覚えておくことにしましょう。

また,海上警報の対象として緯度経度で区切った海域は天気図上でFOG-LINE.JPG - 1,745BYTES や GW-LINE.JPG - 2,232BYTES といった線で囲んで表現されるようです。

このとき下のように,海上強風警報や海上暴風警報では,丸い形の波枠で囲まれますが,海上濃霧警報ではトゲトゲの波枠で囲まれます。

海上警報の種類によって枠の形も異なることは覚えておいて損はなさそうです。

 

このように,気象庁では日本近海の低気圧に関する情報とともに,強風・濃霧などの海上警報,他にも風向・風速・波の高さなどの海上予報を発表し,海の上を行き交う船の安全性の維持や,海上輸送における経済性の確保に貢献しているのですね。

 

 

天気図理解のメモ
  • 発達中の低気圧や台風の場合には,中心位置などの情報が英文記事として天気図上に以下のように記入される。

    

  • 低気圧の発達,中心気圧,中心位置,進行方向・速度,今後ある時間内に予想される風速 など。
  • 実際に気象現象が発生しているか,もしくは24時間以内に発生すると予想される場合に海上警報が発表される。
  • 天気図上で海上警報は,海上濃霧警報( [FOG]),海上風警報( [W]),海上強風警報( [GW]),海上暴風警報( [SW]),海上台風警報( [TW])として記入される。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。

ブログ開設1年経過

 

ブログ開設から1年

2023年12月9日,この『Weather Learning Diary』というブログを開設してから1年が経ったと連絡がきました。すなわち気象の勉強を始めてほぼ1年が過ぎたということです(勉強を開始したのは,ブログを開設する1~2週間前に気象の本を読んだことが最初)。

 

元々,銀河や惑星といった天文学には興味があったのですが,地球そのものに目を向けることは少なく,これまで身近な気象現象についてはあまりノータッチで生きてきました。事実,学生時代に地学というものを学んだ記憶がほとんどないのです。

しかし1年前,書店で気象予報の本をペラペラとめくってみると,その内容がとても面白く,そこから気象の勉強を開始したというのが事の発端です。

 

ただ,私はなにぶん飽きっぽい性格ですので,最初は勢いでコツコツと勉強できたとしても途中で止めてしまう可能性も十分に考えられました。そこで,勉強したことを「見える化」し,そして世の中に発信して誰かにその内容を読んでもらえたならそれも一つのモチベーションになるだろうと考え,ブログを始めることにしました(ブログの名前は,日々天気の勉強を記録するという意味で『Weather Learning Diary』と,なんの工夫もない名前になりました笑)。

これまでに100を超える記事を書き,これらの記事が私の気象理解の土台となっています。

 

私は気象予報士といった資格は有しておりませんので,世の中の気象予報士の方が書かれたブログなどと比べると知識や経験ははるかに劣るのですが,全く気象のことを知らない初心者の視点に立って勉強内容を発信できるという点ではもしかすると役に立てるのかもしれません。

 

ただ,ここ最近は仕事も忙しく,また気分的な面で気象の勉強がノらないときもあるので,とりあえずマイペースに気象の理解を進めている状況です(気象の勉強が嫌いになったら元も子もないですからね)。

今後も,少しずつ学んだことを整理し発信しつつ,天気図を眺めて明日・明後日の天気を考察できるような,そんな自分を目指して勉強を続けていこうと思っています。

 

気象予報士試験について

次回の第61回気象予報士試験ですが,結局受験するのは見送ることにしました。そもそも一般・専門知識の理解度が中途半端な現状と,ここ最近は実技試験がそこそこ楽しくてそちらに重きを置いて勉強しているもののやはり中途半端な状況であるので,こんな宙ぶらりんな状態では合格するのは難しいと判断したためです。

実技試験を解くと一般や専門科目だけでは見えてこなかった世界もあるワケなので,そういった世界を一度味わってから再び一般・専門に戻る道を選ぶことにしました。

 

この1年間,本当に学ぶことが多くて楽しく勉強できたと思っていますので,今後もこのワクワクを維持していけたら幸いと思っている次第です。

 

 

【天気図】JPCZとカルマン渦

 

2023年11月24日,にわかにX(旧Twitter)が気象関連で湧き立ちました。どうもJPCZとカルマン渦が天気図上に登場したようです。

 

みんなJPCZ好きなんですね。まぁ私も好きですけどね。なぜなら視覚的に分かりやすいから。でもJPCZは大雪をもたらすので,出現したからといってはしゃいではいられないのです。

そんなこんなで今回は先日起こった気象現象について,ちょうど良い機会ですので勉強していくことにします。

 

 

JPCZ

下は2023年11月24日の13時半ごろの可視画像です。

日本海には筋上の雲が広がっていますが,その雲を裂くように朝鮮半島の付け根から北陸地方にかけて帯ができているのが見て取れます。

これはJPCZ日本海寒帯気団収束帯,一部メディアでは線状降雪帯)と呼ばれています。

朝鮮半島の付け根には長白山脈という2000メートル級の山々が連なる山脈があり,ここに大陸から流れてきた冷たい空気がぶつかり分岐し,その下流で再び合流して空気が収束することで上昇流が起こって積乱雲などの対流性の雲ができるのでしたね(下図参照)。

 

このときの地上天気図を見てみると,JPCZができているところで等圧線が湾曲した気圧の谷ができていることが分かります(下図のオレンジ線)。

空気が収束する場所では上昇流が生じ,地上では気圧が低くなるため,このような気圧の谷が見られることが多くなります。

天気図上にちゃんとその兆候が表れているのが見ていて楽しいですね。

 

カルマン渦

JPCZが現れたのと同じタイミングで,韓国の済州島(チェジュ島)の南にカルマン渦が発生していました。

下の写真を見たら一目瞭然。主に層積雲から成る雲の渦です。

コーヒーにミルクを入れてかき混ぜるときのような渦巻きが写っています。

この時刻付近の済州島の天気記号を見てみるとたしかに下層雲に層積雲 があり,この日の雲はほとんどが層積雲で占められていることも分かります。

 

そして,このカルマン渦とは流体の流れの中に障害物を置いたときに,その下流で交互にできる渦のこと流体力学の研究者であるカルマンという学者さんの名前に由来しています。その渦については下のアニメーションが分かりやすい。

   

カルマン渦は身近にも存在しているようで,野球のナックルボールであったり,旗が風ではためくのもこの物理が関係しているそうです。

 

今回の気象現象においては,済州島が空気の流れの障害物となってカルマン渦列ができていますが,他にも主に冬季に屋久利尻島などでも見ることができます。

では,空気の流れを遮れば必ずカルマン渦列が見られるかというと,そう簡単でもないようですね。そこにはいくつか条件があります。

 

まずは雲が発生していること。カルマン渦が可視化できるようになるためには雲がないといけません。

また,風向がほぼ一定で比較的強い風が吹いていること

そして,高度1km付近に顕著な逆転層があり,山頂がその高度よりも高いこと。この日の済州島でのエマグラムを,ワイオミング大学のサイトから取得して解析してみると以下のようでした。

840hPaあたりに逆転層がありますね。高度は約1500mになります。

済州島中心には漢拏(ハルラ)山という約2000mの山があり,確かに逆転層高度よりも山頂の高さの方が高いことが分かりました。逆転層があるところはきわめて大気が安定であるため,上から蓋をされているような形となり,下層の寒気は山を迂回するように流れる結果,その下流でカルマン渦が現れるのです。

 

カルマン渦についての詳細な解説動画は下の動画を参考にしてください。私も現在勉強中。


www.youtube.com

 

このように,衛星画像にはJPCZとカルマン渦が出現し,冬がいよいよやってきたと感じた11月下旬なのでした。

 

天気図理解のメモ
  • JPCZは,朝鮮半島の付け根の山脈に大陸から流れてきた空気がぶつかることで分岐し,その下流で空気が収束し悪天候となる。
  • JPCZができているところで等圧線が湾曲した気圧の谷ができることが多い。
  • カルマン渦とは流体(空気)の流れの中に障害物(孤立峰など)を置いたときに,その下流で交互にできる渦のこと。気象において,主に層積雲から成る雲の渦となる。
  • カルマン渦は,済州島屋久島や利尻島などで主に冬季に見ることができる。
  • カルマン渦ができるには,風向がほぼ一定で比較的強い風が吹いていること,高度1km付近に顕著な逆転層があり山頂がその高度よりも高いことなどの条件がそろう必要がある。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトを参考・引用させていただきました。

2023年11月の空の観察

 

もう11月も終わりで,早くも2023年も終わりが見えてきました。

来月12月で気象を学び始めて1年になります。

1年間仕事の合間を縫って少しづつ勉強を続けてきたのですが,1年前よりかは確実に天気予報などについて敏感になりました。新しい世界が広がった感じです。ゆっくりではありますが少しずつ理解が深まっていくのを感じています。

 

さて,そんな11月の空を少ないながらも何枚か撮影していますので,今回はそちらをご紹介。

 

まずは晩秋の朝の空。

空には高積雲が所せましと並んでいました。これは高積雲の中でも「半透明雲」というやつでしょうか(『新・雲のカタログ』を参考)。

 

夕方の雲も撮影。

印象派の絵画のような,光の一瞬一瞬の移り変わりが美しいですね。

 

暮れ行く街並み。

 

最後はお月様。

雲が月光を反射して月光環ができていたのですが,スマホの写真ではあまりキレイには写せませんでした。

月のぼんやりした輪郭の周りに七色の光の輪が見えているのです。

月の右下に小さい点が見えますね。木星です。

11月25日(土)は月と木星が接近したのでした。

 

11月ももう終わり。

12月もマイペースに気象の勉強を続けていこうと思っています。

 

【天気図】天気図の記号③~気温・気圧~

 

前々回,前回に引き続いて天気記号を理解していきます。今回は気温と気圧。こちらは覚えることも少ないのでサクッと行きましょう。

 

 

気温

まずは気温。こちらは天気図を見ていてもだいたいこの数字が気温っぽいなというのが分かります。

 

例えば下に示した天気記号を見てみます。

   

「16」という数字が書かれていますが,これが気温ですね。

天気記号では気温は現在天気の上(中層雲の左)に記載される数字を読めばよく,セルシウス温度(セ氏度)で表され単位は℃です。ちなみに,アメリカだけは天気記号の気温は華氏(単位は°F)が使われてるそうです。

 

気圧(気圧変化量)

気圧(の変化)は全雲量を示す円の右側に記載されます。

下の天気記号を見てみましょう。

   

「-20」という数字がありますがこれが気圧変化量を表しています。気圧変化量は3時間前からの変化値です。数字の前の符号は,3時間前より気圧が上昇した場合は+を,気圧が下降した場合は-を付与ます。さらに注意すべきことに,「-20」というのは「-20hPa」の変化ではなく「-2hPa」の変化です。1の位の数と小数第一位の数が2桁の数字で表現されるのですね。

ですので,仮に3時間前と比べて気圧が0.4hPa上昇したときには,「+04」と書かれるということです。

 

そして符号付の気圧変化量の数値の右には,気圧変化傾向を表す記号が描かれます。

気圧変化傾向の天気記号は下の9つ。こちらは非常に直感的で分かりやすい。

  

時間軸を右方向にとったときの気圧値のグラフがそのまま記号になっているのですね。

 

地上実況天気図を読む

さて,ここまで雲形・雲量・現在天気・過去天気,そして気温と気圧を勉強して,ようやく準備は整いました。これで天気記号を読むことができるはずです。

 

まずある日の名瀬における実況が下のように表されていました。

気温は22℃,6時間前の天気(過去天気)はしゅう雨性降水があり,現在天気は過去1時間内にしゅう雨があったものの現在はそのような大気現象は認められていないようです。雲量は7となっており天気は曇りですね(現在の天気については「しゅう雨があった」とも言えますし,「曇り」とも言えますので,どちらの表現を使っても問題ありません)。

下層雲は積雲で,下層雲の雲量は6ですから,全雲量に占める下層雲の割合が高いことも読み取れます。中層雲は高積雲で,上層雲はないようです。

気圧は3時間前から0.5hPa上昇していますが,その気圧の変化は下降後に上昇した経緯をとったことが分かります。

風については今回言及しませんでしたが,南南東の風が風速5ktで吹いています(風については下記事参照)。

weatherlearning.hatenablog.jp

 

もう一つ見ておきます。

下は八丈島におけるとある日の実況です。

気温は19℃,過去天気は雨,現在天気は過去1時間内で連続的に並の雨が降っているのが分かります。3時間前からの気圧変化量は0.1hPaの下降で,下降後に一定となる経緯をとりました。風向は東南東で,風速は20ktの風が吹いています。

雲量の記号が三角形に円が入ったもの  は(無人観測所での)自動観測を表しており,雲量や雲形は観測していません。

 

 

こういった記号が理解できると,また一段天気図を見るのが楽しくなってきますね。

 

天気図理解のメモ
  • 天気記号では気温は現在天気の上(中層雲の左)に記載され,セルシウス温度(セ氏度)で表され単位は「℃」。
  • 気圧変化量は全雲量を示す円の右側に記載される。気圧変化量は3時間前からの変化値を表す
  • 1の位の数と小数第一位の数が2桁の数字で表現され,3時間前より気圧が上昇した場合は+,気圧が下降した場合は-が数値の前につく。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトを参考にしました。

【天気図】天気図の記号②~現在天気・過去天気~

 

さて,前回は天気記号で雲について学びました。今回は天気についてです。こちらは覚える記号多めです。

 

 

現在天気

前回は雲量について勉強しましたが,そのとき全雲量によって天気が「快晴」「晴」「曇」と分けられるのでした。しかしこれは降水などの大気現象がないときの話です。大気現象がある場合は天気はそちらを優先することになります。

 

天気図には,現在の天気(正確には1時間前から現在)を記号で表す現在天気が書かれています。雨や雪や雷などです。そしてその強さや時間的変化によっても記号が異なってくるから覚えるとなると大変です。

現在天気については100種類の記号が定められているのですが,さすがに100種類は覚えられません(私は)。しかし天気記号にもある程度の法則性がありそうなので,今回は主なものだけをピックアップして紹介することにします。

 

まずはから。

雨は 黒点)の記号が使われます。シンプルですね。ただ,雨粒の小さい霧雨の場合は (カンマ)が使われるようです。黒点とカンマが合わさった記号がありますが,これは単純に「雨と霧雨」という天気になります。

そして雨の強さによっても記号が異なってきます。

   

左から弱い雨,並の雨,強い雨という風に,降水の強さが強くなるほど縦方向に黒点が並ぶようになります。そしてこの場合,雨の連続性はなく,前1時間以内に雨が止んだ時間(止み間)があったことを表しているのです。

 

1時間連続してずっと雨が降り続いていた場合は,横方向(時間軸ととらえると分かりやすい)に点が並びます。

下の場合は,左から弱い雨,並の雨,強い雨を表しており,さらに1時間ずっと雨が降り続いていることも同時に表現しているのです。ややこしいですね。
   

 

ただこの法則さえ覚えてしまったら,後は他の降水現象にも同じように適用することが可能です。

例えば下の場合。

   

左から弱い霧雨,並の霧雨,強い霧雨を表し,また前1時間内に止み間があったことを表します。

止み間がなく連続して霧雨が降った場合は下のようになります。

   

左から弱い霧雨,並の霧雨,強い霧雨で,数が増えると強度が増す点は変わりません。

 

次はですが,雪の場合も考え方は同様です。雪は(アステリスク)の記号が使われますが,これは星型で形的にもイメージしやすいですね。黒点とアステリスクの合わさった記号がありますが,これは「みぞれ」を表現しています。これも分かりやすい。

雨と同様に,前1時間以内に不連続な雪が降った場合は,1列で降水強度が増すごとに縦方向に記号が並びます。

   

左から,弱い雪,並の雪,強い雪(ただし前1時間内に止み間があった)。

連続して雪が降り続いた場合は横2列から強度とともに記号が増えていきます。
   

左から弱い雪,並の雪,強い雪(ただし前1時間内に止み間がなかった)。

こんな感じです。

 


他の降水の天気記号としては,しゅう雨性降水(にわか雨・にわか雪など)は白抜きの逆三角形(▽)がつくようです。

   

上だと,左から弱いしゅう雨,並または強いしゅう雨,激しいしゅう雨となります。

 

逆三角形の上の黒点)がアステリスク()に変わると下のようになり(図が分かりづらいですが),

  

左から,弱いしゅう雪,並または強いしゅう雪を表します。

 

みぞれは雨と雪が混じったものなので,下のように表現されます。

  

左から,弱いしゅう雨性のみぞれ,並または強いしゅう雨性のみぞれ。

 

他にも逆三角形の上が▲になるとひょうを表します。

  

左から,弱いひょう,並または強いひょうです(ひょうは積乱雲から降りしゅう雨性なのでわざわざ「しゅう雨性の」という断りはいらない)。

 

同様に逆三角形の上が△になると「あられ」を表します。

  

左から,弱いあられ,並または強いあられ。

 

イレギュラーなものだと,下が凍雨の天気記号。
 


そして試験でも良く出てくるのが雷電。 

 

ギザギザして雷を表現しているのでしょうか。この場合は観測所には降水が観測されていません。

観測所で降水が観測された場合は,この雷電記号に加えて降水の記号が加わります。

   

左から,雨または雪を伴う雷電,ひょうまたはあられを伴う雷電という感じ。

また,電光は見えるが雷鳴は聞こえないときは下のようにギザ矢印で表現します。ただし,雷光だけが見えるこの場合には天気は雷電には当たらず,地点円の全雲量から天気を判断します。

 

 

さらに雷電が非常に強いときはギザギザの数も増えるようです。

  

左から,雨または雪を伴う強い雷電,ひょうまたはあられを伴う強い雷電という感じです。

 

あとは,もや*1(下左)と*2(下真ん中),そして黄砂が降る時期に比較的見られる煙霧*3(下右)を覚えておけばだいたい重要なところは網羅したといってもいいと思います。

   

霧については,左側に縦線があるときはその現象が濃くなったことを表し,右側に縦線があるときはその大気現象が薄くなったことを表します。

  

 

そして,現在は大気現象がないものの1時間以内に起きたときは,ブラケット記号(])を用います。

例えば,下のように。

       

 

左から,(前1時間内に)霧雨または霧雪があった,雨があった,雪があった,しゅう雨があった,ひょうやあられがあった,雷電があった,霧があった という風になります(ただし,過去1時間にあって現在は見られない天気については強弱についての分類・区別はない)。

要はブラケット記号があれば,(今はないが)過去1時間以内にその現象が起こったことを意味するのです。

 

こちらも下にチェック表を入れておきます。毎週ドリルしていけば,さすがに嫌でも覚えてしまうのではないかと思います。私も現在勉強中。

現在天気.pdf - Google ドライブ

 

過去天気

過去天気とは,現在からさかのぼって6時間前の天気のことです。

過去天気で覚えるべき主なものは以下の6種類です。現在天気ともほぼ同じ記号であり,かつ数が圧倒的に少ないのでこれは覚えられそうです。

  

これは記憶しておきましょう。

 

天気図の中の現在天気と過去天気

以上のことを踏まえて実際の地上天気図を眺めてみます。

   

前回勉強したように,上層雲は巻層雲,中層雲は高積雲,下層雲に積乱雲が存在しているのが分かります。そして雲量は7,下層雲の雲量は4であることが見て取れますね。天気は悪そうです。

現在天気は全雲量を示した円の左側に記載されます。この場合は雷電ですね。すなわち観測した場所で雷があったことが分かります(降水はなかった)。

そして,過去天気(6時間前)は下層雲の雲量の右側に表示されます。この場合も雷電です。積乱雲が発生し雷がゴロゴロ鳴っているような悪天候の日だったようです。



別の日には下のような天気記号がありました。

   

上層雲は巻雲,中層雲は高積雲,下層雲に積乱雲が存在しているのが分かります。そして雲量は8,下層雲の雲量は6であるので,空を占める積乱雲の割合が多かったことが読み取れます。
現在天気は弱いしゅう雨ですね。過去天気(6時間前の天気)はしゅう雨性降水です。

 


実際に天気図を見て現在天気や過去天気を読み解くと,低気圧や前線の近くで確かに天気が悪かったりするので,どの領域で雨が悪かったのかが分かり見ていて楽しくもあります。そんな感じで天気図勉強をしているのです。

さて,次は天気図の気温や気圧について勉強していくことにします。

 

天気図理解のメモ
  • 1時間前から現在までの天気を表す「現在天気」が天気記号として天気図に描かれている。頻出の記号は覚えておく。
  • 過去天気とは,現在からさかのぼって6時間前の天気のこと。6つのメインの記号は覚える。
  • 天気図上において,現在天気は全雲量を示した円の左側に表示される。
  • 過去天気は下層雲の雲量の右側に表示される。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。

*1:もやとは,空気中の水滴などの影響で見通しが悪く,視程が1km以上の状態をいう

*2:霧とは,空気中の水滴などの影響で見通しが悪く,視程が1km未満の状態をいう。また,陸上で視程が100m以下もしくは海上で500m以下の霧のことを特に「濃霧」という

*3:煙霧とは,乾いた微粒子が大気中に浮遊していて,視程が10km未満になっている状態をいう

【天気図】天気図の記号①~雲形・雲量~

 

ここ最近天気図を眺めることが多くなりました。中でも気象予報士試験の実技試験を解いて,天気図の読み方を勉強している時間が多い感じです。(なのでアップする記事は天気図関連がどうしても多くなってしまいます。)

そして実技試験を眺めていると必ず出題されているのが天気図の記号の読み方ですね。結構ボリュームがあるので覚えるのもなかなか一苦労なのです。

それでもやはり天気図を読めるようになりたいので,そこは地道に覚えていくほかなさそうです。

 

 

下はとある日の地上実況天気図(ASAS)から切り出してきた一部です。なんだが色んな記号が並んでいるのが分かりますね。

ある記号は雲の形を表しており,ある記号は雲量を,数字は気温や気圧などを表しているようですが,いろいろあってなかなか一度には覚えられません。

今回から一つひとつ分けて勉強していくことにしましょう。

 

雲形

まずは雲形を表す天気記号を勉強していきます。

以前,十種雲形について勉強しました。

weatherlearning.hatenablog.jp

雲はその高度によって上層雲(「巻」がつく),中層雲(「高」がつく),下層雲(何もつかない)に大きく分けられるのでしたね。

また形によっても,立体的なモコモコした雲(「積」がつく)に,のっぺりした雲(「層」がつく)に分類できるのでした。

 

そしてこの考え方は天気図の記号でも同様のようです。

下に示したものが雲の形の記号の一例です(気象庁|国際式の天気記号と記入方式 (jma.go.jp)より引用)。

上層雲は巻雲・巻層雲・巻積雲の3つ。記号を見てみると,いずれも共通して のように杖のように巻いていますね。これが上層雲の記号の特徴のようです。

巻雲 を基にして,横に線が引かれると巻層雲 に,モコモコした記号が足されると巻積雲  になると考えたらなんとなく法則性が見えてきますね。巻層雲としては他にも  や  や  などといった記号がありますが,やはり横線が入っているのは共通しています。 

次に中層の雲は高層雲・高積雲・乱層雲の3つ

中層雲の記号の多くは斜めに線が入っています。斜め線(高)+横線(層雲)で高層雲 に,斜め線(高)+モコモコ線(積雲)で高積雲    などと覚えれば良さそうな感じでしょうか。イレギュラーなものは,高積雲    や乱層雲 など。ここは地道に覚えることにします。


下層の雲は積雲・層雲・層積雲・積乱雲の4つです(積乱雲は雲頂高度は高いものの雲底が低いため下層雲に分類されます)。

地平線からモコモコ湧き上がる様子を表したような記号が積雲   と積乱雲   です。層雲は横線で  と  ですね。分かりにくいのは層積雲   ですかね。

 

このように闇雲に覚えるよりかは,共通した法則性を理解しつつ,型にはまらないイレギュラーなものだけを覚える方が効率的だと思います。

下に私が作ったチェック表を入れておきます。私は毎日1枚これを埋めてドリルしていますのでご興味あればダウンロードしてご活用ください。

雲形.pdf - Google ドライブ

 

雲量

雲量も過去にさらっと言及していますが,ここでおさらいです。

weatherlearning.hatenablog.jp

雲量とは,空を見上げたときに空全体に雲がどのくらいの割合を占めているかを表す指標です。日本の方式では0~10までの10分雲量で表現されますが,国際式では0~8までの8分雲量で表現されます。ここでは国際式を勉強します。

 

雲が全くなければ雲量は0になります(単位は「オクタ」になるらしい)。記号は で表します。少し雲が観測されたら1で  と書きます。雲量0と1が「快晴」に相当します。

 

雲量が2~6は「晴」に相当し,雲量は数字が増すほど多くなり,それぞれ    という記号が用いられます。

 

雲量が7と8は「曇」になり,  と書きます。

最後に,霧や黄砂などが濃いなどの理由で空の状態が不明な場合は  と記載されます。

 

まとめると以下の表のようになります。

 

ちなみに天気については大気現象(雨など)がないことが前提になります。大気現象があった場合には天気はそちらが優先されます。

例えば狐の嫁入り*1があって,雲量は6で「晴」に相当するものの降水を観測した場合には,そのときの天気は「雨」になるのです。

こちらもシートを作成してますので,必要に応じてご活用ください。

雲量.pdf - Google ドライブ

 

天気図の中の雲形と雲量

では最後に,冒頭の実況天気図の一部を拡大してみましょう。天気図の上の方に刻まれたこちらの天気記号を見てみます。

雲形の記号を探して見ると,この図の中に3つあることが確認できます。

上から巻層雲,高積雲,下に積乱雲の記号が書かれています。このように,天気図では上層雲,中層雲,下層雲の3つの高度でそれぞれどの雲が観察されたかが記載されるようです(雲が観察されない場合は何も描かれない)。

そして下層雲の右の数字で「6」とありますが,これは下層雲の雲量を表しています(下層雲がなければ中層雲の雲量になります。記述する場合は,「下層雲(もしくは下層雲がなければ中層雲)が,8分雲量で6である」などと書く。全天の8分の6を下層雲が占めるという意味ではないので注意)。

 

そして中上層雲と下層雲の間には矢羽根があり,雲量(全雲量)が示される記号があります。上の場合は雲量7ということになります。

これより,全天の雲量は7であり,下層雲である積乱雲の雲量は6ということになり,空を覆っている雲はほとんどが積乱雲であると読み取れるのですね。

 

このように天気記号が理解できたら,その場所の天気がどうだったかを思い浮かべることができるので非常に便利ですね。また世界が広がりそうです。

 

 

しかし天気図には雲だけの情報が記載されているワケではありません。例えば上の天気図で中層雲の左に「28」といった数字がありますが,これは気温を表しています。

とすると,気温が28℃ということはそこそこ暑い時期の天気図ではないかということも予想できるのですね。実際この天気図は9月1日のものから拝借しています。

気温や気圧などの情報も天気図には描かれていますが,そちらの説明はまた今度に回すことにします。

 

天気図理解のメモ
  • 上層雲は巻雲・巻層雲・巻積雲の3つ。記号は覚える。
  • 中層の雲は高層雲・高積雲・乱層雲の3つ。記号は覚える。
  • 下層の雲は積雲・層雲・層積雲・積乱雲の4つ。記号は覚える。
  • 雲量とは,空を見上げたときに空全体に雲がどのくらいの割合を占めているかを表す指標。国際式では0~8までの8分雲量で表現する。記号は覚える。
  • 降水などの大気現象がある場合,雲量による天気よりも大気現象を優先する。

 

参考図書・参考URL

下記のサイトから画像などを一部お借りいたしました。

*1:天気雨のこと。晴れていて雨が降っているという怪奇的な現象から狐に化かされているのではないかということから由来しているようですが,諸説あるようです。完全な余談ですが,黒澤明監督の『夢』というオムニバス映画の中の『日照り雨』という作品を中学生の時に見たとき非常に印象的で衝撃を受けことを今でも覚えています